第2話 鋼鉄の巨人
輸送トラックで揺られ揺られ、アカネたちがたどり着いたのは、東国境にほど近い、ある研究所だった。
トラックから降りるとすぐ、研究所の職員らしき男が現れた。
「移動後すぐだが、これから以下の八名には地下ブロックに来てもらう。まずは……」
呼ばれた名前の内六つは聞き覚えが無かったが、残りの二つはアカネの知る名前だった。
「……朔月アカネ、コヒー・レンス。以上だ」
――――
「な、やっぱり私ってラッキーガールでしょう?」
研究所の地下ブロックに向かう薄暗い階段の中で彼女が問いかけてきた。
「本当にラッキーボーイなら、そもそも少年兵なんかにならないんじゃないの?」
こんな問いはアカネは何度もしてきたけれど、その度に彼女はこうはぐらかした。
「本来ならみんな死んでるところを、私だけ生き残ったんだよ。神様ってホントにいるんだって思ったね」
「『あの時生き残ったからには、きっと生きている理由がある』でしょ、何回も聞いたよ」
「先に言うなよ」
くだらない会話であったが、アカネ自身、そんな彼女のおかげで自棄になっていないのだと、ほんの少しだけ彼を尊敬していた。
自分にも、生きている理由があるのだろうか――
そう思ったとき、階段が終わり、彼女の視界を光が包んだ。
地下のブロックは丸ごと一つの部屋になっているようで、かなり広い。
そして視界の先にあるそれに呼び出された八人の視線は釘付けになっていた。
「あれって、まさか……」
目の前にあるのは、8人の巨人だ。
アカネの身長の5倍は優に超えるであろう巨体は、むき出しの金属の輝きを纏っている。
巨人が金属鎧を着ているわけではない。
そこにあるのは、金属製の巨人なのだ。
身体を動かすのは筋肉ではなく、それを模した無数の機械。
心臓となるのは、本物の人間。
大体半世紀前に実用化され、『大陸統一戦争』では両陣営の主力兵器としてほとんどすべての戦場の王者として君臨した、鋼鉄の巨人――
「そう、
「新世代TDのテスト機体、言うなれば『2.5世代TD』機体名は『スレイプニル』。これを君たちに預けたい」
それからの言葉は、ほとんどアカネの頭には入っていなかった。
アカネだけではない、そこにいた八名全員が、現状を把握するのに必要十分な冷静さを失っていた。
「
「最新型じゃね?」
「こんなの見たこと無い……」
「やっぱ私って、本当にラッキーガールなんじゃ……」
そしていち早く冷静さを取り戻した少年が、職員らしき男に質問を投げた。
「どうしてこれを、僕たちに?僕たちに何をさせる気なんですか……?」
職員らしき男は声音を変えずに淡々と答えた。
「現在、東国境要塞が襲撃されるという予想が上層部に立っている。東国境要塞を抜けられれば、再び東側に侵攻され、戦争が再び始まる危険性がある。そのため、国境要塞を守る必要がある」
「そんなこと、答えになっていません!!僕は……いや、きっとここにいる全員が
彼の叫びは、概ね……少なくともアカネとコヒーにとっては事実だった。
TDはきわめて高価な兵器だ。
クルトミアとアナトミアレベルの国ならともかく、一部の小国では両手の指で数えられるほどしか運用していないという噂すら流れるほどである。
そしてそんな機体を八機も、素人同然の自分達に?
そんなうまい話があるのか?そもそも、自分たちにTDの操縦ができるのか?
そんな現実的な疑問が八人を夢から目覚めさせたように、少年少女は押し黙った。
しかし、その職員らしき男は取り繕うかのように、もしくはアカネたちを安心させるかのように口を開く。
「新世代のTDは操縦に新システムを搭載している。動かすだけなら理論上は生まれたばかりの赤子ですらできるような代物だ。」
「それに、訓練を積む時間だってある」
「それならなおさら、正規のTDオペレーターを呼んでくればいいじゃないか」
最初に疑問を呈した少年は、再び反論する。
「終戦から間もない現状、正規のTDオペレーターは自由に動けないんだ、活動家の奴らに文句を言う口実を作るだけだからね。それに、君たちが活躍すれば、正規のTDオペレーターになれる。野党や物乞いなんてしなくて済む。」
「今モリニアを救えるのは君たちしか居なくて、私たちはそれのために出来る限りのことをしたつもりだよ。君たちだって、安定した未来を手放したくはないだろう?」
八人は、再び押し黙った。
確かに今、この誘いを蹴ってしまえば、次のチャンスはいつになる?
いや、もう来ないかもしれない。
野党や物乞いとして惨めな一生を送るくらいなら、ここで奮起して、希望を掴んでみるのもいいのではないか……
「わ、私、やります!」
最初に沈黙を破ったのは、コヒーだった。
「私は今、最高にツイてる。できるよ、アカネ」
その言葉が全員の思考のタカを外し、結局全員がそれに志願した。
野党や物乞いか、それとも国を救った英雄か、どちらかを選べと言われて、野党や物乞いを選ぶ人間など、いるはずがないのだ。
たとえそれが善意で舗装された地獄への道行きであっても、彼女たちは進むしかなかったのだ。
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