第4話 星環ノ静誓



 アストラリアの男子寮。


 相部屋となっているレインの部屋には、既に住人がいた。胸元にあるDクラスの紋章が刻まれたバッジを確認するや否や、少しの警戒心が混じる。



「どうも、初めまして。Eクラスのレイン・クロフォードです」



 こういうのは格下から挨拶するのが鉄則だろうと思い、レインは扉を閉めると同時に軽めに自己紹介をした。それを無言で聞いていた彼は腰掛けていたベッドから立ち上がる。


 身長はレインより大きめだ。百七十後半はあるのではないかと、レインは相手の目を見る為に目線を高くして捉える。見るからに体を鍛えてそうな程の筋肉質な体が、余計に威圧感を漂わせる。



「ノエル・アシュレイ」



 それだけ告げると、手を差し伸ばしてきた。


 握手のつもりなのだろうか。名前だけを名乗るあたり、基本的に無口な性格なのかもしれない。レインは拒む理由もないので素直に握手に応じた。


 ノエルの握手は力強く、まるで自分の性格を表している様に感じ取れた。握り潰されないか不安になりながらも互いに握手を交わし、レインも自分用のベッドに腰を下ろした。


 部屋の出入り口から近いところにレインのベッドがあり、その向かいのベッドにノエルも座る。端にはミニテーブルが二つあり、実質あまり動かなくても生活には困らなそうだ。



「えっと……ノエルさん、は俺のクラスについて何も言わないの?」



 そして率直に思い浮かんだ疑問を投げかけた。正直部屋に入るなり暴言などが飛んでくると思っていたので予想外ではある。



「ノエルでいい。俺はそういうの疎くてな。興味ない」



 ノエルは冷蔵庫から無造作に二本のペットボトルを取り出すと、迷う様子もなくそのうちの一本をレインに差し出した。その自然な仕草に、言葉以上のやり取りがあるような気がした。


 「どうも」と礼を言ってから飲み物を頂き、一息いれた。


 そして訪れる沈黙の時間。お互いあまり語り合うタイプではない為か、今後もこのような時間が続きそうだと悟る。だが、こういう時間も嫌いじゃないレインにはちょうどよかった。


 クラスの等級について興味のないという話をノエルから聞き、無駄な警戒心もいつの間にかなくなっていた。



「……体鍛えてるの?」



 ふと、また気になった事を聞いた。



「あぁ。だが、それはレインもだろう? 握手の時そう感じた」



 思わぬ返答に、言葉を返すのに一瞬だけ間が空いた。自分のことをそう見抜かれていたことに驚かされる。


 いまどき体を鍛えている方が珍しいとさえされるくらいに、魔術は色々な応用が効く。それは身体の向上もそうだが、レインのように一芸に特化する魔術も多数存在する。


 だが、ノエルはそれでも体を鍛えているようだ。それはレインにとっても、素直に嬉しいことだった。身近に似たような人がいるとは思ってもいなかったからだ。



「うん。俺は剣術を使うんだ。昔お爺ちゃんに鍛えられてさ」



 その言葉が嬉しくて、レインはつい昔のことを話してしまった。



「いい爺さんだと思う。俺も似たような感じだ。父に鍛えてもらった」



 ノエルは目を閉じながら、レインと同じように話す。



「俺の爺ちゃん、昔帝国の宵星剣団しょうせいけんだんって部隊の副団長だったんだ」



 あまり人に話すことはない過去を赤裸々に語る。


 昔の祖父の話だが、レインもまだ産まれていない時代の昔に起きた戦争を機に、残念ながら宵星剣団は解散を余儀無くされ、祖父は家族の元へと戻っていったという。


 それがなければ、レインも剣を教わることがなかったかもしれないと考えると、彼からしたらありがたい話かもしれない。



「それで、俺は爺ちゃんに教えて貰った剣術がどこまで通用するのか知りたくてこの学園に来た」



 どうしてここまで話したのか、レインにもよくわかっていない。秘密にしているわけでもなかったが、特に話す理由もないので、黙っていた。にも関わらずノエルにここまで話せたのは不思議だった。


 ノエルはその話を黙って聞いていた。レインがひとしきり話し終わると、「そうか」とただそれだけ言ってゆっくり目を開く。



「やはり、強い奴はどこにでもいるな」



 そして、ノエルは小さく笑う。無愛想だなと思っていたのだが、案外そうでもないのかもしれないとレインは思った。



「いずれレインとも戦う日が来るかも知らない。その時本気のお前と戦える事を祈っている」



 と、ノエルは力強く言った。



「……あぁ。その時はノエルも本気出してくれよ」



 こうして、レインは初めて別のクラスの友人が出来た。


 初めは警戒していたものの、いざ話してみると案外他のクラスも実は等級なんて気にしていないのではないかと、そんな気がしてならない。実際はそんなことはないのだろうが、全員がそうではないと分かったのは大きかった。


 それからしばらくは無言の時間が続いたり、それでも多少会話を挟んだりと楽しい時間を過ごしていた。


 夕食の時間になってきたので、二人は部屋を後にして食堂へ向かう。


 この学園寮は男女別に食堂が用意されており、各寮内の一階が食堂スペースとなっている。開放時間は午前六時から七時半、そして午後は七時から八時半の合計三時間だ。



「あっ、レイン君!」



 食堂ではすでに何人かの生徒が食事をとっていたが、同じクラス同士でも会話の量はまばらだった。どこか、等級ごとに敷かれた見えない線が空気を分断しているようだ。


 部屋が分かれたシオン・バレッタがレインの姿を見つけて駆け寄ってきた。



「おっ、シオンか。部屋はどうだ?」



 トレイに晩御飯を乗せて、レインはシオンに尋ねてみた。が、聞くべきではなかったかもしれない。その話題をレインが持ちかけた瞬間からみるみる顔が沈んでいくのが分かった。



「Dクラスの人と一緒なんだけど、なんだか怖い人で……」



 全てを察したわけではないが、シオンの口ぶりからして、どうにも打ち解けていないようだった。



「……まあ、頑張りなよ……」



 かける言葉が見つからず、ただシオンに同情するばかりであった。



「レイン君はどうなの?」

「あー……俺は仲良くなれた、かな?」



 その言葉を聞いてシオンは羨ましそうにこちらを見上げてきた。こればかりは運も絡んでくるだろうし、なによりEクラスというだけで扱い的にはそうなるだろうと予想していたので、どうすることもできないのだが。


 「変わってよー」と懇願されたが、無理なものは無理なので丁重にお断りしつつ、ノエルが待っているテーブルの方へ足を運んだ。


 明日からはいよいよ授業が始まる。


 せめて、何も得られずに終わるような一年だけは、絶対に避けてやろう。そう、心に決めていた。

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