第3話 星環ノ同居者



 教室でのオリエンテーションを終えたレイン・クロフォード達は、その足で新生活の拠点となる学生寮に案内された。


 この学園に来て初の友人、シオン・バレッタ。彼とレインの斜め後ろを歩くセフィルス・ルクレティアの三人で、生徒達のクラスが集まる第一校舎を出て、すぐ隣にある建物へと向かう。



「寮は他クラスと一緒なんだな」



 建物の外から全体を見渡すように、レインは隅々まで目を走らせた。大きめな建物が二つ。本校舎すぐ隣の建物は女性寮、そのもうひとつ隣が男性寮となっていた。


 六等級全てに専用寮を用意するのは、さすがに現実的ではなかったのだろう。



「……でも、他のクラスの人も一緒なんだよね」



 シオンは顔を伏せながら不安そうにしていた。


 学生寮がクラス混合となると、やはりEクラスはどこまでも孤立する。他のクラスからは蔑ろにされるのは明らかだろう。



「まあ。仲良くなれたらいいんじゃない?」



 レインは励ますように言葉を紡ぐが、実際交友を深められるとは考えてなどいなかった。それが狙いで学園側も寮をクラス混合にしていると聞いた事はあるが、Eクラスに関していえばそれは不可能に近い。



「レイン。そんな事はどうでもいいのです」



 すると、まだ自分の寮に入らずレイン達と共にいたルクが声を上げた。その声に反応してレインは振り返る。



「……なぜ。なぜ男女別なのですか」



 思春期男子みたいな事を言い出してきた。


 彼女とは行動を共にすることも多いが、寝食まで共にしていたわけではない。同じ家に住んでいても、部屋は別々だったはずだ。


 なぜ今回に限ってルクがそんな事を言い出したのかわからなかった。



「えぇっ。やっぱレイン君とルクシアさんってそういう関係?」



 あまりの出来事に固まってしまったレインを横目に、シオンは驚きつつも興味がありそうに視線を向けてきた。



「違う違う」



 レインは半目になり手を横に振って否定した。ルクは「そういう関係とは?」と首を傾げていた。


 最初から説明するのも面倒だし、彼女の事については話せない事もあるので軽く濁すように最初に話をしていたのだが、シオンの目にはそう映っていたようだ。



「あのねルク。学園で男女共同の寮なんて聞いた事ないよ?」



 子供に物を教えるように、レインは優しく答えた。



「何故ですか? 意味あるのでしょうか」



 だがルクは頑なに事実を認めようとしない。


 意味があるのかと問われると、レイン自身もあまり否定は出来なかったが、それでも男女の壁というものが存在する以上、そうあるべきなんだろうと言い聞かせる。



「それに、もし万が一のことがあったらどうするのです?」



 ルクはそこでようやく、本心を曝け出すように話した。


 万が一、とはルクの事なのでレインの身を案じているのだろう。それはレインにも伝わっているのだが、ここは数多の召還士が勢揃いのアストラリア。


 不測の事態が陥ったとしても、問題はないようにも思える。



「大丈夫でしょ、ここはアストラリアだし」



 レインはルクの不安を拭い去るように言い放ち、「それに」と続く。



「俺もルクも。簡単にやられるような鍛え方してないって」



 その言葉を聞いてようやく納得してくれたのか、ルクは小さく微笑んだ。



「では、何かあったら呼んでください。飛んでいきます」



 そしてそれだけ言うと、ルクは女子寮へ向かっていった。


 二人はその後ろ姿を目で追いながら、少しの間固まる。



「レイン君。あんな事言ってたけど僕達Eクラスだよ? もしそんな不測の事態なんてあったらどうしようもないんじゃないかな……」



 横からシオンは呟く。


 確かに彼等はEクラス。ましてやレインは魔力もない。



「んー。俺、剣術なら心得あるから。ルクも召還魔術はダメだけど、他なら誰にも負けないよ」



 少し考える素振りを見せた後、レインは自分の使う奥の手をシオンに教えた。


 ここは召還士を育成する学園。要は召還術以外については教わる事も出来ないが、それ以外の魔術なら比較的修得は容易だった。



「剣術!? 今時珍しいね」

「え、そう? まあそんな事より俺らも早く寮に行こうよ」



 剣術は、一昔前のアルシオネ帝国では召還術と並ぶ人気の術だ。


 あまりにも召還術の方が圧倒的に強かった為に、その人気は次第に薄れていき、今では使う術者の方が少ないが、それでもレインは必死に剣術を学んでいた。


 そんな昔のことを思い出しながら、レインは男子寮へと向かう。


 寮に足を踏み入れると、すぐ正面のホールに設置された掲示板が目に入った。


 生徒達がざわざわと群がっているのは、そこに部屋番号と名前の一覧表が貼り出されていたからだ。



「えーっと、俺は……三階の南棟、か。部屋番号は――」



 レインは小さく呟きながら名簿を辿る。隣に記された名前を見て、ほんの少しだけ眉を動かした。やはり個人部屋というわけではないようだ。予想はしていたが、トラブルだけは起きない様にと祈るばかりだ。


 まあ、今さら何を考えたところで部屋割りは変わらないのだが。そう考えたレインは気を取り直して階段を上がった。


 三階の廊下はしんと静まり返っていて、他の生徒の気配はほとんど感じられない。案内板を頼りに進み、目的の部屋の前に辿り着いた。


 ドアノブに手をかけかけたところで、中から先に誰かが気配を察知したように声がかかる。



「入っていいぞ」



 低く、落ち着いた声。警戒というより、淡々とした響き。


 レインは軽く息を吐いてからドアを開けた。部屋の中には、先に入っていたらしい一人の男子生徒が、無言でベッドに腰をかけていた。


 その鋭い目つきと、妙に落ち着いた佇まい――そして、彼の胸元のバッジに刻まれた“D”の紋章が、僅かにレインの警戒心を刺激する。

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