アレクシス・ハーデットの事件簿
牧嶋 駿
死体浮遊事件
第1話 浮遊する死体
グリムウォード・ブリッジの夜は、
ゴシック様式の
石畳に響く無数の靴音をかき消すように、ガタガタと音を立て馬車が通り過ぎる。そのたび紳士淑女の
そんな、この大都会を象徴するような空気を、一瞬で引き裂く悲鳴が突如として夜の闇に響いた。
人通りの多さゆえ、何が起こっているのか把握することは困難かと思われたが、その心配は無用だった。
――ひとが、浮いている。
それは
見世物じみた異様な光景だったが、手に持ったカンテラに照らされた中年男の顔を見れば、息絶えていることは明らかだった。
私は、思わず息をのんだ。
空中に浮かぶ遺体はタキシードに身を包んでいた。
夜会や舞踏会にふさわしいはずの正装が、しかしこの場では不気味な異質さを放っていた。もしそれが朽ち果てた衣服をまとい、骸骨のように
だが実際の遺体は生前の肥えたままの姿を保ち、ただ静かに宙に浮いている。
その整然とした姿と、死の静寂との間に生まれる不協和が、不気味さをいっそう際立たせていた。
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