全ステータス1から始まる魔王覇道!〜女神と勇者をぶっ飛ばす〜

角々三角形

第1話

 人ってのは、目標があると頑張れるもんだ。


 分かりやすいゴールがあれば、そこまでの道のりは格段に走りやすくなる。


 俺はそれをよく知っている。


 いつか、こうしてやる……必ずこうしてやる……と考えて、辛い辛い、馬鹿みたいに辛い、魔王になるまでの道のりを耐えきったんだ。


 ……え?俺の目標は何だったのかって?


 ……そうだな。

 教えてあげよう。

 俺の目標は女神をビンタすることだったよ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「鈴木旬さん、貴方の人生は終わりました。」


「……やっぱり、そうですか……」


 気がつくと、俺は不思議な空間に佇んでいた。

 目の前には、人間離れした美貌を持つ白髪の美女。

 背中から純白の翼が生えているのを見るに、天使なのだろう。


 ゆっくりと自分の体を見下ろす。

 血がベットリと着いたジャージが目に入った。


 確信する。

 俺は、死んでしまったのだ。


「……あの、俺が庇った猫は……」


「大丈夫です。貴方が身を呈して庇ったお陰で、奇跡的に助かりましたよ。」


「そう、ですか……」


 良かった……

 これで心残りは無い……と言えば嘘になる。

 家族や友人を大勢置いてきて、後悔がない筈がない。

 が、少なくとも一番気がかりなことは解消された。


「……貴方は正義の心を持ち、若く、現世にまだ、心残りもある。……そこで、貴方に提案があります」


「……!」


 女神が述べる口上にどことなく聞き覚えがある。

 この流れ……


「その世界は、力を持ち、驕った勇者達によって恐怖のどん底に落とされて居た……」


 やっぱり異世界転生か。

 よく聞くやつだ。

 そういう系のラノベは幾つか読んだ事がある。


 世界を絶望に陥れている勇者を、勇者として倒して来い、って事なんだろ……


……って、ん? あれ?


「……勇者、ですか?」


 魔王じゃなくて?


「……えと、はい、そうです。……情けない話なのですが、昔、世界を滅ぼさんとしていた魔王を倒してもらおうと、私が特別な力を与え、異世界へと送った地球人達の幾人かが、魔王を倒した後に自分達の力にものを言わせて好き勝手に世界を牛耳り始めてしまい、そのせいで多くの者達が苦しんでいるのです」


 ……。

 思ってたのと違うな。


「それで、俺にその勇者達馬鹿共を止めて欲しいと」


「はい。勿論、タダでとは言いません。もしも全ての勇者達を止めて頂けたら、大天使様に謁見でき、何でも一つ、願いを叶えて貰えますよ! ……どうか、お願いできませんか?」


 う〜ん。

 要は女神の尻拭い、か。

 俺は別に異世界に興味は無いが、願いとやらで、もし日本に戻れるならやる価値はある……か?


「……その願いで日本に戻してもらうことって、出来ますかね?」


「はい。可能です。時を戻し、貴方の運命を変え、猫も貴方もトラックに轢かれないようにしてさしあげます。異世界の記憶も、保持したままか、消すか、選べますよ」


 おお。

 年齢や時間まで戻してもらえて、記憶も残せるのか。

 そりゃいいな。


 う〜〜〜ん。


「……俺も特別な力とか貰えるんですか?」


「はい。勿論です。世界に歪みが生じてしまうので、一つだけですが……」


 一つ、か。

 う〜〜〜〜〜ん。


 ……よし、やるか。


 人助けが出来て、その上家族や友人とまた会える可能性が少しでもあるなら、やってみて損は無いだろ。


「分かりました。やりましょう」


 俺は異世界へ行くことにした。

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