エレメント・シュラウド~最初から好感度MAXの爆乳クーデレポンコツ幼馴染と一緒に、未知の怪物相手に超絶無双します!~

リリック

第1章 壊れた世界《Broken world》

第1話 偽りの楽園

 一五年前、世界中に流星が降り注いだ。

 だが誰もが目を奪われた幻想的な流星は、世界に恐怖と絶望をもたらす凶星きょうせいだった。


 飛来した流星から出現した、高次元侵攻生物――“ティタネス”。


 後にそう名付けられる怪物たちは、次々に世界の大都市を破壊し尽くした。


 追い込まれた各国家は、世界連合を結成してティタネスに対抗するが、戦闘機、巡航じゅんこうミサイル、核兵器――更には某国ぼうこく秘密裏ひみつりに開発していた細菌兵器に至るまで、全ての現代兵器が通用せず連戦連敗。

 文明と大陸を破壊された人類は、その生存域を急速に狭めていく。


 絶望の時代の訪れ。

 人類は敗北した。


 でもその最中、一筋ひとすじの希望が差し込んだ。


 ティタネスに唯一対抗できる力――“エレメント”を宿した人間の出現だ。


 一方、エレメントには致命的な欠陥が存在していた。

 それは流星が・・・飛来した・・・・後に・・産まれた・・・・子供・・にしか・・・宿らない・・・・だということ。


 その結果、大人はエレメントの軍事転用を模索もさく

 エレメントを攻撃に用いた武器――“シュラウド”が開発され、子供たちは新兵器を手に、戦場の最前線に送られる。


 これが今の世界の現状――。


「――エレメントこんなもんが、希望の力……ねぇ」


 そして俺こと、月城暁つきしろあきらは、ついこの間、高校に進学したばかりの一五歳。

 ちょうど流星がちた年に生まれた人間。

 つまりエレメントを宿した世代でもある。


 エレメントの発現から年月が浅いため、ティタネスに対抗できるのは、例外なく子供だけ。

 昔なら野球選手やら、動画配信者やら、お嫁さんやら、誰もが色んな夢を持っていたらしいが、今の子供の進路は、シュラウドを使ってティタネスと戦う戦士――“特装兵士ソルダート”一択。

 他の夢を持つことは、一切許されない。


 だから俺やその下の世代は、小学生の頃から戦闘訓練を強要され、中学も高校も国から進学先を指定された。

 この高校も今受けている授業も、全て上から強制された結果だ。


「……ったく、よくこんな・・・授業・・を熱心に受けられるもんだな。平凡な学園生活に勝るものはないってのに……」


 人類の滅亡がかかっているのだから、戦わなければならない。

 そんなことは分かってるし、俺にだって守りたいものはある。


 でも大人たちにおだてられて、優秀な特装兵士ソルダート――英雄になることに目をキラキラさせてる周りの連中クラスメートほど、前のめりになれないってだけだ。


 ――まあ、色々と・・・あったからな。


 俺は熱心に授業を受けるクラスメートから視線をらし、窓越しに外の風景を見ながら、内心で嘆息たんそくを漏らした。

 授業中によそ見しても怒られないのは、窓際の席の特権だ。せめてもの現実逃避ぐらいはさせてもらおう。


 ただ視線の先、校庭に広がっているのは、体操着で汗を流す女子なんかではなく、シュラウドを手に模擬戦闘を行っている生徒たちの姿。


 クラスメートや、己のエレメントをシュラウドに乗せてぶつけう彼女たちを見ていると、つくづく実感させられる。

 やはり、どうあがいても逃れられないのだと。


 ――学園ここは、牢獄ろうごくだ。


 ◆ ◇ ◆


「……あっーす! あん? なにボーっとしてんだよ?」


 軽快けいかいな声音で思考をさえぎられると、俺は声の主に視線を向ける。

 すると、細身で長身、そこそこ顔の整った金髪の少年が小首を傾げながらこちらを見ていた。


「腹減ったぁー! さっさと学食行こうぜ! 学食!」


 デリック・エギルバード。

 俺の一つ前の席で授業を受けていたクラスメートにして悪友といったところか。


 ちなみに俺たちの通う、特装兵士ソルダート養成学園――“エデン・オブテイン”は、“楽園を勝ち取る”というお題目をかがげ、世界中からの出資で創設された。

 だからここが日本国内にある学園でも、デリックのような別国籍の生徒は何も珍しくない。むしろ教師を含めた半分近くが、日本人以外で構成されているぐらいだ。


 逆に言えば、ティタネスに故郷を潰され、被害が比較的少ない日本に逃げ込んだ人間の多さを表しているのかもしれない。

 もっとも、その被害の少ない日本ですら、世界からの出資を受けてなお、自衛隊の海上基地を改造しなければ学園一つ新造できない有様ありさまではあるが。


 全く、楽園エデンが聞いて呆れるな。


「つーか、さっきの授業見たか?」

「授業を見たってなんだよ。文章の間を飛ばすな」


 授業は受けるものであって、見るものじゃない。

 デリックが言っているのは、他クラスが外で行っていた模擬戦闘――さっきの実技授業についてだろう。

 つまりこいつも教師の話を聞かず、そっぽを向いてたわけか。


「ンなことより、やっぱ竜ヶ崎りゅうがさきさんは、凄かったよなぁ!」

「学園一の天才だ。当然だろ」

「くぅー! 美人で学園最強とかしびれるぜ!」

「そうだな。お前とは真逆の存在だ」

「おやおや、デリック君を、あんまりめちゃいけませんよ。俺にだってワンチャン!」

「ない」

「おう、ふぅ……」


 顔は悪くないんだし、こういうのを抑えたら彼女ぐらいできそうなもんだが、デリックがリア充になるのは、まだ先のようだ。

 どちらにせよ、アイツ・・・を攻略するのは無理だと思うが。


 ◆ ◇ ◆


「ってか、今日の食堂、み過ぎじゃね?」

「ああ、流石にこれは……」


 そうした雑談のかたわら、俺たちはとっくに食堂に到着していたが、その入り口付近に生じた人の波によって、進行をさえぎられていた。

 端的に言えば、食堂大渋滞だいじゅうたいだ。


「おい、どうしてくれんだよ! 俺らの昼休みぃ! 全然前に進まねぇじゃん!」


 確かにいくら混んでるにしたって、人の波がける様子がない。

 昼食を食べに来た行列というよりかは、まるで何かを取り囲むように人が集まっているように見える。


 明らかな異常事態だが、そんな俺たちの疑問は、女子たちの甲高い声によって解決することになる。

 いや正確には、女子たちの中心に立つ、長身の男子生徒の発言によって――と言うべきか。


「さっきの授業、しかと見させてもらったぜ。流石の剣裁けんさばきだったな、みお。どうだ? 数少ない専用・・シュラ・・・ウド・・持ち・・同士、親睦しんぼくを深めるために、一緒に昼飯を食うってのは?」


 男子生徒の名は、アデル・シュルツァ。


 気障な態度ナルシストが鼻につくが、これでも学年二位の実力者だ。

 まあ名前を覚えるのが面倒なら、下半身直結男でもいい。


 今も大量の女子を引き連れているのに、別の女子生徒にちょっかいをかけている。

 これだけでも、脳が下半身に繋がっている思春期野郎だと理解できるはずだ。


 そして俺たちの優雅ゆうがな昼休みを妨害ぼうがいするレベルの人の波――特大ハーレムをきずいたアデルが、熱心に狙っているのは――。


「――いたしません」

「え、あ……っ? これは手厳しい。でもさ、いい加減、素直になってもいいんじゃねぇか?」

「致しません」


 致しませんbotボット――ではなく、竜ヶ崎りゅうがさきみおという名の女子生徒。

 しくも、さっきまで俺とデリックが話題に上げていた人物だった。


「けっ! 野郎、断られてやんの!」

「当然だろ」

「さっすがは、俺の竜ヶ崎さん! そこらの女とはオーラが違うんだよなぁ! オーラが!」


 女子生徒の腰下まで伸びた漆黒の長髪はさらりと流れ、前髪に入った蒼のメッシュがよりクールさを引き立てている。

 冷たい眼光を放つ紫の瞳も含め、どこか無機質さすら感じられるほどだ。


 一方で女子にしては背が高く、全く着崩していない制服越しにでもスタイルの良さが際立っている。

 着崩すどころか改造オシャレ制服だらけのアデルハーレムが引き立て役にすらなっていないという意見にだけは、俺もデリックに賛同せざるを得ない。

 まさに高嶺たかねの花だ。


 とはいえ――。


「お前のでもないけどな」

「あいでぇっ!?」


 俺の蹴りがデリックの尻に突き刺さる。

 当然の・・・抗議・・ではあったが、タイミングが良くなかった。


 周囲のざわめきが途切れたのと、バカデリックの声を響かせてしまった瞬間、その二つが不運にも一致シンクロしてしまったのだから。


「……」


 ジロリと、辺りの視線が俺たちに突き刺さる。


 学園の派閥はばつが変わりかねない、学年主席と次席の恋愛模様れんあいもよう

 そんな注目のやり取りの最中、偶然にも落ちこぼれ二人が流れを断ち切ってしまった。


 場違いだ――という、無言の圧なのだろう。

 でもこれもまた、タイミングが悪かった。


「――ッ!?」


 やり取りの流れが途切れた瞬間、眼前を一迅いちじんの風がぐ。

 甘い匂いに鼻孔びこうをくすぐられ、左腕を暴力的な感触で急襲きゅうしゅうされる。


「――私、この方と昼食を取るつもりでしたので、これで失礼致します」


 竜ヶ崎澪渦中の張本人は俺の腕を取り、体を寄せながらこんなことを言い放ちやがった。

 そうだ。俺たちが作り出した静寂せいじゃくは、下半身直結男アデル・シュルツァではなく、別の人物を突き動かしてしまった。


「な、テメェっ!?」


 当然、この行動が周囲に与える影響は大きい。アデルに至っては、額に青筋すら浮かんでいる。

 対するもう片方は、この状況を何も認識していない。

 それどころか本人的には、上手いことアデルをけむに巻いたつもりでいるらしい。


「そうですよね、あきら?」


 むんっと、どこか得意気な上目遣いで、俺の顔をのぞき込んで来るのが、その証拠だろう。

 しかも妙に上機嫌だ。それと自分のあごを、俺の肩に乗せるな。


 久々の・・・会話・・で忘れていた。

 幼馴染コイツが、クールな顔からは想像もつかない天然ポンコツだということを――。


 ――さぁて、どうすっかな。この状況。


 俺はティタネスと戦う前に、とんでもない窮地きゅうちを迎える羽目はめになったようだ。

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