第2話 災厄の黒龍
「テメェ、
アデルの怒号が食堂に響く。
逆ギレ以前の問題だが、怒り心頭とはこのことだな。
「いや、そうしたいのは、
「ん、ふふふ……」
「この馬鹿力がっ!」
澪を引き
「あ、
デリックは
馬鹿で助かった。
でもこのまま平和にランチになんて行けるはずもなく、俺は現在進行形でポンコツ化している澪との関係を語る
といっても、プライベートなやり取りまで言いふらすつもりはないし、口にしたのは二つの事実だけ。
一つ目は、俺と彼女が生まれた時からの幼馴染であること。
二つ目は、小中高と学校が一緒であること。
「テメェ、澪の弱みを握って、そうやって引っ付かせてんじゃねぇのか!? いくらテメェが落ちこぼれって言ったって……」
「誰も関係を知らないのがおかしい? 心外だな。
「ふぇ、えへへ……」
「ぐぎぃ、ぉっ!?」
今回ばかりは、
だけど、このエデンにも小・中学校が同じだった奴は少なからずいる。誰も知らないってことはないはずだ。
じゃあ、どうして
みんな高校デビューに夢中で、
いくら澪が有名人とはいえ、
「ざけんじゃねぇ! テメェみてェな落ちこぼれが澪と釣り合うわけねェだろうが!」
アデルは制服の
「っ、あれが、専用機……」
と、誰かが
一応、怒りは引っ込んだらしい。
ただ、まるで正義のヒーローが、
その気もない女に
「コイツが目に入らねぇか? 選ばれた人間である俺や澪にあって、テメェには一生縁のないもんだ! なァ、落ちこぼれ君よォ!」
まあ今の社会では、
「……よくもまあ、突然宿った訳の分からない力と、他人から貰った開発途中の試作兵器をそんなに嬉しそうに誇れるもんだな。その
「あァ!? テメェの才能がカス以下なのを
「こんな魔法
「良い
シュラウドは術者のエレメントを動力源とする兵器。
戦車や戦闘機と同じで、色んな国や企業が研究開発に
それどころか、今はシュラウド開発が資本主義の中心にあると言っても過言じゃない。
であれば、かつての人気タレントやスポーツ選手と同じく、将来有望な生徒個人にスポンサー企業が付くのは、自然な流れだろう。
現に、学園側も企業と生徒のスポンサー契約を
それに対して一般生徒は、学園の訓練機を借りるのですら、
九割以上の生徒が使い古された訓練用の量産機を取り合う
でもいくら自分専用シュラウドが手元にあろうと、大本の所有権は企業側にある。
要は企業技術の
その金色のブレスレットだって、大人の
生き残れば、そんな日々の繰り返し。
もし自分が戦場で死ねば、そのデータをフィードバックした新たな機体が次のテスターに受け継がれるだけ。
もちろん、大多数の研究者はちゃんと世界を救うために頑張ってるはずだし、ここまで極端なマッドサイエンティストはいないと信じたいがな。
「お、おい、暁……」
「そんな顔するな、デリック。いつもみたいに
「あァ? 情けなく二対一にしてくれってか? 落ちこぼれ二匹が群れたところで、俺が
「そーだよ、さっさと謝っちゃいなよ」
「ねー、アデル君に勝てるはずないんだから、早く楽になっちゃえば? それそれそれ、それっ! 土下座! フゥ! 土・下・座! フゥ! ど・げ・ざぁ!」
取り巻きの女子たちが
ティタネスに立ち向かえるのは、
だから自分たちは、人類の希望。
旧人類の大人より価値ある新人類である。
今の社会の
その上で、これだけプライドが
過度なストレス社会で
無論、時代が根付かせた選民思想の被害者と言うには、この連中はゴミクズ過ぎる。
とりあえず
「――まあいい、成績は落ちこぼれで上等だが、売られた
「テ、ッ……メェッッっ!!」
「お、
「ざけんじゃねぇぇっ!! “シュテルクスト”ォォッ!!!!」
アデルが叫ぶ。黄金のブレスレットが光り、身の丈ほどもある戦斧へと姿を変える。
その光景を目の当たりにした瞬間、取り巻きたちのバカ騒ぎが収まり、集団に恐怖と動揺が広がっていくのがはっきりと分かった。
「あ、アデル君っ!? いくらなんでも……」
シュラウドはれっきとした軍用兵器だ。
隣の人間が人の
取り巻き連中が正気を取り戻したのは、そういう理由だろう。
さて一応は、さっきの土下座コールに参加してなかった数少ない善良な生徒に悪いし、彼らを巻き込まずに、この下半身直結男をぶちのめすためには――。
『――
突然の校内放送と共に、あちこちからアラートが鳴り響く。
もうアデルなんかに、構っている場合じゃない。
俺は一瞬で思考を切り替え、オペレーターの声に全神経を張り巡らせる。
『“
悲鳴の如き勢いで内容を伝えられた瞬間、自分の背筋に冷たいものが走ったのが、はっきりと分かった。
ティタネスとは、あくまで“高次元侵攻生物”の総称であり、一個体に付けられた名称じゃない。
他の動物や魚と同じく、新種が確認される度に個別の名前が付けられていく。
そしてオペレーターの女性が口にした、“フェルニゲシュ”という個体を知らない人間は、恐らくこの世界に存在しない。
なぜならフェルニゲシュとは、人類が最初に確認したティタネス。
片手間に米軍の原子力空母を
しかもその後に何度かの交戦を経ても、やはり人類は歯が立たず、決死の核ミサイル爆撃すら無意味。
雄大に翼を広げて、核の爆炎の中を無傷で飛ぶ過去の映像は、
つまり知名度も、強さも“
そんな災厄の黒龍が――。
『は、反応は……
すぐそこまで迫っている。
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