第4話 想い
(HITOMI)
日付が変わって、
今年もあきちゃんにお誕生日を祝ってもらって
寝付けなかった夜の、朝が来て
早起きが苦手なあきちゃんは
きっと朝一で実家に帰ることはできないだろうから
私が先に帰って、顔を合わせないようにお線香をあげにいく。
さほど遠くない地元に帰るための電車に乗って
何に視点を合わせるわけでもなくぼーっとしながら
いつだか、湊音と二人で過ごした夜のことを思い出す。
あきちゃんよりも少しだけ早く大人になった私たちは
まだあきちゃんは飲めないお酒をこっそり飲みに行ったりして。
「密会してたらあきがいじけるかもな」
「密会って。笑
あきちゃんってお酒飲めるのかな?
すぐ赤くなりそう」
「俺に似てって言いたい?笑」
湊音からもらった第二ボタンは今でも大事にとってあるけど
それ以上でも、それ以下でもなくて。
「瞳さ、」
「ん?」
「どうすんの?あき」
「え?」
「そろそろあいつも
彼女とか作っちゃうんじゃない?」
好きなんでしょ?
「え、っと、」
「ははっ。気づいてないと思ってた?」
ちょっといろいろ話していい?
って言いながらウーロン杯を流し込む湊音は
ずっと心の奥にしまってあった何かを吐き出すみたいに。
「あいつはさ、当然に瞳のこと好きじゃん」
「当然ではないけど」
「で、俺もお前が好きじゃん」
「、、、そう、ですか」
そうなのかなって思ってたけど、なんか。
「ほんとはあと何年かしたらプロポーズして、
みんなまとめて家族になるのもアリじゃね?
って思ってた」
「恋人にもなってないのに?笑」
「でもあいつはきっと、
それだとうまく笑えないから」
「あきちゃん?」
「空気読むのうまいやつだからさ。
もしね、もし俺らが上手くいったらすっげー
喜んでくれるし、叶わなかった初恋として、
うまいこと消化しちゃうんだと思うわ。
空気読むのうまいけど、
犠牲が多すぎんだよあいつは。」
「犠牲?」
「、、、卒業式の日さ、高校の」
「卒業式?」
「あいつ花渡そうとしたのよ、瞳に」
「花?」
「直前で俺に相談してきてさ。
ひーちゃんにあげたい花一生懸命選んで、
金だって全部自分で出してた」
「、、もらってないけど」
「見たんだと思うわ、俺がボタンあげてたの」
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高校の卒業式が終わって、
クラスメイトと写真を撮ったり
卒業アルバムの白いページにメッセージを書き合ったりした後
ボタンが一つもついてない学ランを羽織った湊音と一緒に
通い慣れた道を一緒に歩いた。
「見事になくなったね、ボタン」
「俺もまぁまぁモテてたみたいだわ」
「告白された?」
冷やかしばっかだったよ、なんて笑いながら
私の家まで送ってくれて
「じゃあ、また遊びに行くね。あきちゃんの
バスケの試合決まったら教えてね」
って、いつもみたいに手を振ろうとしたら
「瞳」
私に向かって拳を突き出してきた湊が
「貰ってほしい」
私の手のひらに落ちてきた第二ボタンは
冷やかしだったのか、それとも、
「まぁ、記念にさ」
って照れ笑いしてた湊音を、昨日のことのように思い出して。
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「じゃあ、その花は?」
「母さんにあげてた。
人生初めての花束は一番大切な人にあげたい
から、って」
彼が私の為に用意してくれた花がどんな色だったのかも、
どんな形だったのかもわからないけど
「母さん、優しい子に育ってくれたってすげー
喜んでたよ」
「うん、そうだろうね」
「俺はずるいよなぁ、
あいつに隠れて抜け駆けして」
「それはべつに、」
「でも、二十歳過ぎてもウジウジしてたら、
俺は遠慮なくいくけどね」
「え?」
「あいつが大人になったら正々堂々戦ってやん
よ」
私は、ずっとあきちゃんのことが好きだったけど
でも、そんなのが報われてしまって
幼馴染って大切な関係が崩れてしまうなら
「瞳」
「ん?」
「俺はさ、あいつの前では優しくてカッケー兄
貴でいたかったんだ」
「湊音は十分カッケー兄貴だと思うけど」
「ううん。俺ほんとはすげーずるいの。
俺が良い兄貴でいられるのは全部あいつのお
かげで、勉強もスポーツも、
もしかしたら俺より器用にできるのに
ちゃんと俺を尊敬してくれて、
頼ってくれて。
あいつが何かを夢見るんなら、
何とかして叶えてやりたいって思えた。
でも、」
いつからか
瞳だけは、って思うようになっちゃって。
「、、どういうこと?」
「、、そういうことだよ。」
わかってんだろ、って笑った湊音は
友達でも親友でも幼馴染でもない
普通の男の子の顔をしてて
私は目を逸らして
何も返さずに、逃げて。
報われない人生を選ぶことほど、
楽で幸せなことはない。
誰も傷つかないために、
誰も幸せにならなければいい。
誰の想いも報われなくていい。
みんなで少しずつ心の声を聴いて、
いつまでも、このまま一緒にって願って。
そうやって騙し騙し蓋をしてきた気持ちを抱えたまま迎えた
ある年の誕生日
今年は二人だけで祝わせてほしいって連絡があって
「あと何年かしたら」ってやつが、現実になる気がして。
約束の時間になっても姿を見せない湊音の携帯に何度も電話をして
数時間後に私の電話を鳴らしたのは彼のお母さんで
あの日湊音は
ただ私の誕生日を祝いたかっただけなのか
みんなまとめて家族にしてくれようとしたのか
二人で過ごす誕生日にどんな覚悟があったのかわからないまま
湊音がいない日々を過ごして
一番ずるかった私は、泣くことだって許されるわけがない。
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