第3話 誕生日

兄貴が亡くなってからもう5年の月日が経って



俺もひーちゃんもすっかり大人になって


大人になった俺たちは

たまに一緒にお酒を飲んだりしてた。



「ひーちゃんって結婚しないの?」

「なに、生意気なこと聞くようになったな?」

「彼氏いないの?」

「今はいないよ」

「いたことあるの?」



そりゃあねぇ、

って言いながら最後の一口を飲み干して


いつもは2杯で終わりにするのに

3杯目のおかわりを頼む。












「あきちゃんは?彼女いないの?」

「今はいないよ」

「いたことあるの!?」

「失礼だな、あるよ。笑」




初めて彼女ができたのは高校2年の夏で

でもバスケの試合で俺が一番にガッツポーズを向けたのは兄貴で

切れたミサンガは、

ずっとカバンに隠し持ってて。













「もう、5年だねぇ、」

「え?」

「湊音に会えなくなってから」




兄貴の話

今までもしないわけではなかったけど


積極的には出せない話題だったから

少し、驚いて。



「ひーちゃんはさ、」

「ん?」

「兄貴のこと好きだった?」

「うん。大好きだったよ」

「そうじゃなくて、なんか、男として」








う~ん、ってキレの無い声を出しながら

新しく運ばれてきたビールを飲んで


「湊音は、私のことが好きだったよ」

「え?」

「でも、

 あきちゃんのことはもっと好きだったと思う」

「なにそれ」

「ねぇあきちゃん、

 秋音ってどういう意味があるの?」

「あぁ、えっと、」









秋を知らせる、風の音とか虫の声とか


聴こえてくる音は

故意にたてた物音とはかぎらないから、

耳で聞こえる具体的な音だけじゃなくて、



心の中に響いて来る

秋の気配に気づけるように




音にならない誰かの声も感じ取れる人になってほしい、って。










「あきちゃん、人の心読むの得意だもんね」

「そんなことないけど」

「、、、湊音は?」



船着き場が集まる湊のみたいに

自然と人が集まってくるような、

明るい人になってほしい、って。



「そっか。うん、ほんと、

 その通りに育ってたよね」

「瞳は?」

「お母さんが娘のこと

 ひとみちゃんって呼びたかったんだって」

「ほんとかよ」









ほんとだよ、

って笑った彼女の心の声は聞こえなくて



いつもより多めに飲んだお酒がなくなった時に時計を見ると

もう日付は変わってて



「ひーちゃん、誕生日おめでとう」

「うん。今年もありがとうあきちゃん」



ガキの頃から毎年3人で祝ってた

ひーちゃんの誕生日。












「秋音」

「え?」

「今年で、最後にしようか」







軽くうつむいたま彼女は一筋だけ涙を流して



兄貴と会えなくなった

5年前の今日でさえ、見たことなかったのに。













「最後って、なにが」

「私はもう大丈夫だから、毎年毎年、」

「俺が一緒にいたいだけなんだけど、」



だし、



「なんで今、俺のこと呼び捨てした?」




答えてくれない彼女は財布から多すぎるお金を取り出して

いつまでたっても奢らせてもらえない俺は、いつまでたっても初恋の人の弟のまま。














「私はね、結婚とかはしないよ」

「え?」

「そういうのはもう、怖くてできないの」

「何いきなり」

「あきちゃんが結婚しないの?

 って聞いてきたんじゃん」

「その話もう終わってたじゃん」





だからもう、おしまい





って席を立って















兄貴がバイク事故に遭った5年前の今日








兄貴と一緒に横たわってた薔薇の花束には



お誕生日おめでとう、

ってカードが添えられていた。

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