長く短い恋と祭

宮世 漱一

第1話

放課後、わずかに聴こえてくる吹奏楽部の演奏、野球部の発声、バスケ部が体育館で駆け、シューズが擦れる音。

どこを取ってもこれ以上にないほどの青春。

雲一つない快晴。いつもより群青掛かって光っているようだ。しかし、それすらも霞んで見える程に彼が美しい。愛おしくてたまらない。

村上誠司君。私の気になる…いや、好きな人。

提出用のノートにそれとなく文字を書いて、暇になった私がただ見つめるのは澄みた窓をぼんやりと眺める彼の姿。

気づいたら、彼の横顔をノートの端に描き移している。

もうすぐ世間は夏だと言うのに、いつまで桜が咲いていた頃の一目惚れの瞬間のままで私の恋は止まっているのだろうか。

横山夏海。私の名前。平凡だけど、夏の海を眺めていると、主人公のような気分になる。

彼には好きな人が居る…らしい。けれど恋とは深いもので、どうしても諦めがつかない。いつも大雑把で途中で物事を終わらせる性格の私を悩ませる。

甘酸っぱい恋をしたいと思っていたのに、こんな初々しい気持ちになるとは思わなかった。

そして、昨日の帰宅途中、この気持ちを私の昔馴染みの美咲に伝えた。

「で、夏海。アンタは村上君とどうなりたいの?」

「それは…最終的にはお付き合いしたいなと…」

「で、でも好きな人が居るって…」

「アンタねぇ…付き合いたいんだったらその気持ち本人に伝えろっつうの。私との会話だけなのに顔赤くしちゃって…」

「だって…好きなんだもん」

「…は〜」

一瞬間が開き再び口を開いた美咲の言葉は私にとって更に顔を赤くさせるものだった。

「…デートにでも誘ってみれば?」

「…は?」

「は?じゃないわ。踏み出さなきゃ何も始まんないんだからさ。」

「ほら、ここド田舎のクセに毎年大きい祭があるんだから、手始めに誘ってきなさい。話し終わったら報告してよね」

「え、ちょ…そんな勝手に…」

「んじゃ!また明日!夏海!」

私とは正反対のサバサバしていて元気っ子な彼女はスカートも気にせず走って帰っていった。

そして今、私は彼に‪”‬‪デートのお誘い”‬をしようと話す隙を狙って数分が経過していた。

ただでさえ遠くから見つめるのに精一杯なのに、いきなりそんな、迷惑ではないだろうか。

……もうどうにでもなれ…!!

私はガタッと席を立ち誠司君の肩を軽く叩いて言った。

「…誠司君。」

「…あぁ横山さん。どうしたの」

眠そうな眼を少し見開き軽く微笑んでいる彼。やはり好きだ。好きすぎる。

「…夏休み中のことなんだけど、ひとつ聞いてもいいかな?」

「どうしたの?」

「今度の祭りの日、予定空いてる?」

「空いてるよ。」

息を大きく、だけど彼には聞こえぬくらいに吐いた。


「その日一緒に祭りで花火でも見ない?」


鼓動が高まる。彼からの返事を待つ一瞬が何分間に感じた。


「あー…祭りって…伊佐咲祭りのことだよね?」

「うん。ダメ、かな?」

「…もし横山さんが俺に対してもっとこう…恋愛に近い好意的に誘ってくれているんだったら少し悲しませてしまうかもしれないよ。」

「それは…好きな人が居るから?」

「まぁ…そんな感じだね。」

「だから横山さんの気持ちがもしそうなのであれば、俺は横山さんを楽しませることができないと思う。」


「…それでもいい。」

「私は…今年この祭を誠司君と回りたい。」


「わかった。楽しみにしてる。」


「⋯うん。こちらこそ。」


いくらでもひと夏の恋だと笑ってくれてもいい。

この恋が祭りの日、花火のように火花を散らして消えても、いや。この恋が花火というには美しすぎるかもしれない。

でも、私はこの一時の夏くらい夢を見ていたい。

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