霊感は役立たず!/春子の場合

@namakesaru

数珠をつけて営業しないでください

 春子は病院に勤めていた。


 ある日、訪れた若い営業さんの腕に気になる物を見つけた。

 スピリチュアル系は好きだし、コミュ障だからと言ってアクセサリーに興味がなかったわけではない。

 けれど、さすがに営業先にパワーストーンしてくるのはどうよ? まあ、声かけとくか。春子はおせっかいだ、コミュ障のクセに。


「へえ、オシャレじゃないですか」

「あ、やっぱり気が付きますか?」


 普通に気が付くよ、直径1cm近くの玉が連なっていれば。


「でも、これパワーストーンじゃないんですよ。石じゃないんです」

「?」


 よく見ると、木だ。木製の玉。数珠?

 やだー、なんか変な宗教じゃないよね? いや、もしかしたら触れてはいけないところに触れてしまった? 


「ぼく、見えるんですよ」

 その返事にちょっとほっとした。

 春子は、こういう話大好き。信じるほうだ。一瞬、ヤバい奴かも、と思ったことはすっかりなかったことになった。


「え?ほんと?ここにもいる?」

 いるって言われたときにどうするつもりだったのだろう。大好きなくせに盛大に怖がるのが春子である。

「いえ、この数珠のおかげでいても見えないですから」

 

「仕事はじめたばかりの時は、さすがに良くないんじゃないかと思って外してたんですけど。病院がお客様だから・・・。いろんな病院に行くじゃないですか。そうしたら、やっぱり見ちゃうし体調が悪くなるし。だから、上司に許可取りました!」


 上司公認ですか。

 それに、学生時代からしていたのか。こっそりヤバい奴認定していたコたちもいたかもな、私みたいに。まあ、私は一瞬だったけど。春子は少し気の毒に思った。


「こうして聞かれたときには、説明させていただいてるんですけど、やっぱり何も言わずにチャラい奴、とか思っている方もいますよね・・・」

 悲しそうに言うな。ごめん、そう思ったよ、見かけによらずって。

 そうして彼は帰って行った。


 春子は思った。

 ちょっと見てみたい。


 彼だけじゃない。

 機械の点検や修理は夜間に行われることが多い。そのためにメーカーから来る技術担当者も、見ますよ、とか、声が聞こえたりしますよ、とかいう。


 なぜだ。

 こんなに霊体験をしている人がたくさんいるのに。私は霊感があるに違いない、なのに見たことがない。だから、確信を持てないでいる。霊体験をしてみたいっ!


 そう、強く思った数時間後。

 後悔した。

 その日、当直であることに春子は気が付いたのだった。


 この部屋も、そういう話がないわけではない。椅子がひとりでに回っていたとか、人影を見たとか話し声がしたとか。


 いままで見たことも聞いたこともないから大丈夫なはず! でも、見たいなんて思っちゃったからな。突然見えるようになったらどうしよう。それは向こうからしたらサービスかもしれなくて、あまり怖がっても失礼になるかもしれないし。失礼な奴だって、呪われるのは勘弁してほしい。いつもよりも背後が気になる。振り向いて確認したいけど、もし、いたら?いや、私見えない人だから大丈夫!

 同じような答えのない思考がぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる・・・。


 そういう日に限って暇なんだよね。

 見えてしまったらどうしよう。その考えから離れられないまま夜は更けていく・・・。

















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