土井たか子さん

 いつものように車で通勤していたある日の朝。

 その日はお天気に恵まれいた。少し汗ばむくらいだったのではなかったか。

 ちょうど踏切にかかったところで、

「そういえば、土井たか子さんのポスター貼ってあったよな」

 と思った。


 土井たか子さん。

 覚えている?というか知らない方もいるだろう、いまでは。

 政治家。社会民主党の党首を務めた方で、とてもインパクトのある方だった。

 女性の地位向上に尽力された方、一本筋の通った方、強い方という印象。作者は政治に興味がある方ではなかったから、イメージでしかないけれど嫌いではなかった。 


 春子の頭に浮かんできたポスターはどこで見た物なのだろう。

 この通勤途中で土井さんのポスターを見たことなどないのだ。土井さんが活躍されていたころはここには住んでいなかったし。ずいぶん前に引退していらっしゃたし。

「???」

 なんのことよ、と春子は自分に突っ込みを入れた。


 が、それから1週間くらい、なんだか土井たか子さんの名前が頭に浮かんでくる。だからといって、なにか生活に支障があるわけでもない。勝手に思い浮かんでくることをどうすることもできない。ほおっておくしかないけれど、なんだろな、と春子は思っていた。


 そんなある日、土井たか子さんが亡くなっていた、というニュースが流れた。

 亡くなったのは、土井さんを思い出した日よりも1か月くらい前だったけれど。



 この一件は、春子に自覚を持たせた。

 春子は、自分には霊感がなくはないんじゃないか、と思っていたからだ。

 そう、春子は自覚した。


 自分には霊感がある、がそれは何の役にも立たないものであることを。






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