第11話 スマホを取られただけなのに

☆☆☆


数分後、やっとの思いで咲月先輩を路地の端の壁に追い詰めることが出来た。途中で実先輩は見失ってしまったが、スマホを持ってるのは咲月先輩だから、まぁいい。


今の場所から逃げられないように、咲月先輩の顔の横の位置に両手を置き、さらに足も壁につける。いわゆる、両手壁ドン、足ドンの構図だ。足は腰あたりの位置までしか上げてないがな。これなら逃げられまい。


「追い詰めましたよ、さぁスマホを返してください。」


「くっ.....無念」


咲月先輩は顔を赤くし、本当に悔しそうにしていた。男子高校生のスタミナと脚力に張り合おうとするとは、失策なり。


「ほら、返しなさい」


「わかった.....けど、手渡しじゃなくて胸ポケットに入れる。それでいいでしょ。」


「ん?うーん、まぁいいですけど。」


よくわからないが、返してくれるみたいなので、咲月先輩の提案を了承する。咲月先輩は、言った通りに胸ポケットにスマホを入れる。よかった、ちゃんとスマホを返してくれた。


.....何故か俺のスマホから、シャッター音が鳴った。


「はいそこ、動かないでね」


「えちょ、実先輩?なんすかその格好。」


「見て分からない?警察官だよ。」


実先輩は言う通り、警察官のコスプレをして登場した。いつの間に着替えたんだ?


「君、その子にセクハラしてるでしょ。証拠は揃ってるんだよ?」


「.....はっ!?セクハラ!?いやいやいや、俺はスマホを返してもらおうと.....!」


「スマホなら胸ポケットにあるじゃないか。それに、証拠は揃ってるって言ったでしょ?ほら、これが証拠ね。」


「え?」


そういって見せられた、一枚の写真。それは、咲月先輩にスマホを取られ、取り返そうとしている写真だった。


.....ただ、何故かその写真には咲月先輩の手元にあったはずの、俺のスマホが消えていた。写真の中の俺は、咲月先輩の手のあった、胸あたりに伸びている。


傍から見れば、「女子高生の胸に手を伸ばしてる男」だった。


「はぁ!?何この写真!?スマホがない!?」


「スマホってこれだろう?ちょっと失礼。」


実先輩は俺のスマホを取り、写真フォルダを開く。


「おや、こんな写真まで撮ってたのか」


「げっ、これさっきの!」


最後に撮った写真.....胸ポケットに戻された後に取られたそれは、俺が咲月先輩に壁ドンと足ドンをして迫ってる写真にしか見えなかった。


「卑怯だ!捏造だァ!」


「うわーん、怖かったよー」


「ほら怖がってるじゃないか!どこが捏造なんだ!君、こういうのはいけないよ!」


完全に棒読みの演技をする咲月先輩。マジでおかしいよこの2人!


「ちなみにこの2つの写真は、ボタンひとつでSNSにアップできる状態だから。」


咲月先輩がそういう。お、脅してきやがった!


「それが嫌なら、警察に通報するのはやめることだね」


「そうそう。それを諦めてくれるなら、SNSにアップするのはやめてあげよう。」


「うぐぐ.....わかった、わかりました.....」


俺は負けを認めた。ホントおかしいよこの人たち。


☆☆☆

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