3話 こころ

変わらない昼休みがやってきた。


いつものように、

閉められていたカーテンがズバッと開かれた。


有紗の高い声が教室にひびくと、

クラスメイトたちがいっせいに動き始める。


そして、

前の席に座っている頼子がうつむく。


昨日とまったく同じ光景を、

イチローはひとつひとつ確かめるように見ていた。


コンビニのあんパンを一口かじる。


つぶあんは甘いハズなのに、

なぜか苦々しく感じた。


頼子の小さくなった背中を見つめる。


真昼の光を受けた背中から、

チラチラと星屑のようなホコリが光った。


まぶしさに思わず目を閉じた。

鼻の奥が痛くなる。


そうしているうち、すっかり忘れていた記憶が

どこからともなくうかんできた。



新年度が始まり、新クラス最初のホームルームで、

みんなが順番に自己紹介をしていた時のことだ。


立ち上がった頼子はみんなの前で、

自身の【日光過敏症】をカミングアウトをした。


彼女いわく、【日光過敏症】とは、

日光を浴びた際に皮膚が過剰に反応して、

かゆみや発疹などの症状が現れることらしい。


話をきいた担任は、

その後、教室のカーテンを終日閉めるようにお触れを出した。


キレイで人柄のよい頼子に対し、

クラスは肯定的で、意を唱える者はいなかった。


しかし、

2か月後にすべてが変わった。


クラスの中心人物である有紗と、

頼子のカンケイがうまくいかなくなったのだ。


うまくいかなくなった原因は、

イチローにはわからない。


ともかくそれからというもの、

カーテンをズバッと開ける嫌がらせが始まった。


最初は有紗だけがやっていたような気がする。


だが、

そのうち彼女の行動に賛同する有志たちが現れた。


頼子の味方する何人かの生徒が、カーテンを閉めてやることもあったが、

そんなことをすれば、有紗と有志たちからの弾圧を受けることになる。


こうして1人、また1人と、頼子の味方はいなくなり

現在に至るというワケだ。


イチローは長ーい息を吐き出すと、

ルーティーンに従ってバトルロギアを立ち上げた。


もしかしたら、わかめスープに浸かっていた日々に

戻ろうとしたのかもしれない。


<待ってたわよん>


ラウテルがいたので、

イチローは安心した。


<はやく行かないと昼休み終わっちゃうゾ☆>


<うん>


ラウテルが選んだのは、ボスが連続で出てくる、

俗にいうボスラッシュクエストだった。


短時間で満足を得るには最適なクエストと言えるだろう。


<あちょちょちょちょww>


ラウテルがいつものように、

裸一貫でボスと戦い始めた。


いつもなら笑えるハズなのに、

どうしてもムリだった。


イチローは指を走らせてコメントを打った。


<ちょっと聞いていい?>


<いいでござるよぉー!>


<友達でもないし、なんならしゃべったこともなくて、

そんなヤツがクラスにいたとします>


<説明口調ww>


<ソイツがいじめにあっていたとします>


ラウテルが棒立ちになり、

ボスの火炎放射をくらって黒コゲになった。


スマホにゲームオーバーの文字が映る。


しばしの沈黙が訪れた。


<・・・いじめってマ?>


<うん>


<イチローが心配だお>


<僕は大丈夫だよ>


<イチローには被害がないってこと?>


<うん>


<えっ。どういうこと?

いじめられてるのはイチローが好きな人とか?>


<違うよ>


<なーんだ。それなら放置推奨だってばよ。

それがジャスティス。あたしたちの未来は約束された☆>


<そうかな>


<そうだよ。なんで悩んでんの?>


ラウテルの言うことはもっともだと思う。


きっと以前のイチローだったら、

同じように思ったハズだ。


だけど、だけどさ。

うーん。


イチローの脳みそは大渋滞を起こしていた。


ふと、スマホが太陽光を反射させた。

光が目につきささってくる。


まぶしっ。


「・・・」


いつもなら気にならないことなのに、

イチローはめちゃくちゃにイライラした。


まぶしいんだよ。

ちくしょう。


空をにらみつけたとき、

不運なことに大きな雲の塊が見えた。


舌打ちが聞こえてくる。


イチローの

体の中で大きな流れが生まれた。


その流れに逆らうことは、

どうしてもできなかった。


イチローは立ち上がり、

ズバっとカーテンを閉めた。

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