第4話 後ろにまだ道が在るとは限らない。(後編)
――その違和感、やっぱり間違ってなかったみたい。
エントランスに行くと私が最後の一人だったらしく、
みんなお面をつけた状態でこっちを見てきた。
うわ、気まずい…。
「あ、最後の一人ですね、では説明します。」
添乗員の声でみんなの視線が私から逸れる。
ここぞとばかりに私は、鞄からお面を出してつける。
「この旅館を出てから、ご自分のお部屋に戻るまで”絶対に”仮面は外さないでください。」
添乗員の声に思わず顔をあげてしまった。
なんで、わざわざ部屋に戻るまでつけてなきゃいけないの?
「決まりですから絶対に外さないでくださいね。」
念押ししてくる添乗員がちょっとうざい、それってフリってこと?
押すなよ、押すなよ的な…。
説明はたったそれだけで、添乗員の後を付いていき祭りの会場へ向かう。
民家の外で作業している住民は、相変わらずニコニコしている。
――背筋がゾクゾクした。
歩いていると《よく来たね》《いらっしゃい》そんな言葉をかけられるときが時たまある。
民家の間にある石畳の道を進むと、大きな石でできた鳥居と灯篭そして階段が現れた。
侵入を拒むような急階段を一歩ずつ確実に上っていく。
出来れば…もっと楽な道がよかったんだけど?
最後の方は息切れ寸前で上がりきる。
目の前には竹林と杉の木で囲まれた、開けた土地と祭壇?のような舞台があった。
左手側には社務所と本殿が鎮座している。
私たちツアー客より前に来た、他のツアー団体や個人の客がすでに祭壇の前で場所取りをしていた。
「私たちはこちらです」
添乗員に案内されたのは祭壇の目の前の予約席だった。
ごめんね、場所取りしていた皆さん。
なんて思いながら祭壇の目の前の席に座る。
配られたパンフレットに目を通していると、後ろの方から声が聞こえた。
「これから始まる≪降星(こうせい)の舞≫を見ると良縁の恵まれるらしいよ」
「知ってる!実際に見た次の週に男の人と出会って、結婚したーとかネットで見たよ」
近くに座っている女性二人組の会話が耳に入る。
ほほう、私の玉の輿生活も近いって事かな?
なんて思いながら待っていたら、和風な音楽が流れてきた。
よく神社なんかで聞く曲だ。
生演奏らしく、祭壇の脇に三人、楽器を演奏している人がいる。
音楽が始まると一斉にあたりが静まり返った。
あれ?さっきまで蝉の鳴き声も聞こえたのに聞こえない。
代わりに聞こえるのは、竹の合間を風が吹き抜ける音だけ。
白い巫女服の女性三人が祭壇に現れ会場が緊張に包まれる。
祭壇に上った三人が位置につく。
顔に独特の布がかぶせてあって、表情は見えない。
あの布の柄なんか私のお面の柄と似てるような?
再び生演奏が始まると、舞台の三人が何やら舞のような動きを始めた。
シャンシャンと聞こえる鈴の音と、扇を開いた後のかすかな音も聞こえるくらい静かだ。
しかし長そうだ…。
開始5分で私は飽きてしまった。
ゆっくりとした動きと生演奏と風の音に、うとうとしそうになる。
「はぁ…」
小さなあくびとも、ため息とも言えない声を漏らすと、どこからか視線を感じる。
第六感ってわけじゃないけど、確実にみられてる。
あたりを見渡すと、楽器を演奏している中の一人と目が合う。
お互いに仮面をしているはずなのに、確実に私を”見ている”というのがわかった。
気色悪いな…、なんでこっち見るの。
ずーっと合っていた目をそっとそらす。
早く終ってほしい、そう思いながら携帯のパズルゲームで気を紛らわすことにした。
繋いで、消す。
繋いで、消す。
集中していたけど、楽器の音が消えたので顔をあげると。
三人の巫女が、握りしめた両手を天高く掲げていた。
やっっっと、終わった…長いよ。
添乗員から、この後旅館に戻るも、このまま神社を散策するも自由です。と告げられたので、われ先にと旅館へと戻っていく。
もしかして私だけしか帰る人いないの?なんて思いながらも茜色に染まる道路を踏みしめながら旅館まで歩く。
長い長い散歩を終えて茜色に染まる旅館へと到着。
そそくさと1人でエントランスまで行くが、人の気配がしない。
あれ?誰もいないの?
どんな旅館だよ、なんて思いながら祠がある中庭を抜け部屋に向かうが、やっぱりなかなか部屋につかない。
しかし今回の私は 一味違うのだ。
携帯を取り出し写真を見る。
≪譏溘?髢≫
――これは、記号??見たことあるような。
星の間と書かれていた、木札の表示が変わってる。
確かに撮影したときは星の間とちゃんと書いてあったはずなのに。
うわっ!これ、拡大してよく見ると…文字化けしているデータの表記に似ていてキモイ。
とりあえず、こっちだったよな?
そう思いながら次の角を曲がると、見知らぬ廊下。
後ろを振り返ると少し違和感、でも違和感がわからない…。
ここの突き当りになにか、掛け軸あった気がするんだけど…気のせいかな。
ひたすら廊下を進んで角を曲がるけど、どんどん見たことのない景色になっていく。
こんな生け花あったかな?白い花だった気がするけどツバキになってる。
こんな行灯あったっけ……なんかチカチカ点滅してるし…。
あれ……、この場所。
――こんなに薄暗かったっけ??
「うわぁ!!…いったっぁ…」
そう思って立ち止まろうとすると足がもつれてこけてしまった。
その反動でお面が顔から剥がれ落ちる。
本当に最悪なんだけど…。
立ち上がって服をはらう。
「フフッ…」
笑い声。
でもその声は、私のじゃない…。
声が聞こえた後ろを振り返ると確かに”何”かがいた。
白い、影のような……”ナニ”か、が。
「だ、誰か!!!いないの!?」
思わず叫んでしまった。
叫んだ私を見た白い影は目元は見えないのに、口元は確かに笑ってる。
「ねえ!!!ちょっと!!!本当に誰もいないの!?」
走りながら叫ぶけど返事はない。
もう何回角を曲がったか覚えてないけどやっと見た事ある景気が見えた。
私の部屋がある廊下の景色。
やっと見えた部屋を見ると≪邯セ譏≫文字化けのような木札が掲げられていたが、そんな事を気にする余裕などなかった。
――バタン!!
大きな音をたててドアを閉じた。
そんな私の目の前に広がっていた景色は宙に浮かぶホログラムと、何かの焦げた匂い、そして湿った鉄板の地面だった。
振り返ると、もうそこには開けたはずのドアは無くて。
——もう、帰り道はなくなっていた。
私はこの世界でノイズだった。──異能力すら与えられない私の話 松 基晴 @Motoharu_sunsun
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