第4話

大学での授業はあまり面白いものではなかった。


マックス・ウェーバーがどうしたやら、ジェンダー平等を目指さなければならないやら、構造主義やら、フィールドワークやら、あまり僕が惹かれるものはなかった。


言いたいことはわかる。

僕だって社会の構造を知りたいし、出来ることならそれを良い方向に変えていきたい、と思う。

性の役割みたいなのは平等の方が良いに決まっている。


だけれど、結局のところ、それが出来ないから、みんな悩んでいるのだ。


僕がムツキにそう話すと、ムツキは笑って言った。

「まだ社会学の方がマシよ。ブンガクなんて、社会と1mmも接点ないんだから。ゲーテの詩なんかを研究して、一体何になるのやら」


その通りだった。

我々の下した結論は、大学の授業なんか何の役にも立たない、ということだ。


結局、僕はどのサークルにも参加しなかった。

何のサークルに体験入部したのかさえ忘れてしまった。

たぶん忘れるくらいのものだったのだろう。


学部は違っても同じキャンパスだったから、たまたま僕がランチを食べているところに、ムツキがやってくることがあった。


「つまりさ、社会構造において、もっとも安定する形がピラミッドなのよ。

 下の者たちにしたって別に構造を変えたいわけじゃないの。

 もうちょっと待遇を良くしたいってだけ。

 そんなのもわからないで、あーだこーだ言ってても仕方ないわ」

ムツキはサラダを食べながら言う。


「僕に言われても困る」

僕は炒飯をほとんど食べ終わっていたから、ムツキの食べている姿を眺めていた。


ムツキの身体は痩せていて、どこか中性的だった。

胸の膨らみもほとんどない。

背は女の子にしても小さい方だったろう。


髪は肩まであって、綺麗な黒髪だった。

ほとんどいつもジーンズをはいていて、スカートとかワンピースのときの方が珍しかった。


上着は季節ごとに多少変わったが、5月くらいから冬の手前まで、たいていはTシャツやそういった簡単なものだった。


ムツキはいつも何かを考えているように見えた。

僕がその内容を知ったのはもう少し後になってからだけれど、そのせいでオシャレのことなんて、ほとんどどうでも良かったんだと思う。


そうして、僕からムツキを何かに誘ったり、ムツキから何かを誘われたりすることはすることはなかったけれど、たまに食堂で顔を合わせると話をするようになった。


僕はムツキと話すことが楽しいと思い始めていた。

ムツキの話はいつも刺激的だった。


その間に僕も少しずつ大学の中での自分の居場所みたいなものが出来てきて、それが一日のルーティンとなり、一週間、一ヶ月と拡大していった。


僕はそれなりにこの生活を楽しんでいた。

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