第2話 リーダー
「ダンジョンマスターの説明は理解できたか?」
教師の男が僕たちに問いかける。
「うわっ」
思わず声が出る。
しょうがないだろ。僕は結局席に座らず、先生のすぐ側にいるからその異様さを間近に感じるのだ。
地底の奥深くから響くような低い声。
とても人間とは思えない頭。
それでいて頭以外は人間の形をしている。
恐怖心を煽る姿だ。
さっきはかっこいいと思ったけど、喋ったり動いたりしたら不気味でしかない。
スーツ姿のモンスターは人間のように喋り始めた。
「ゲームは既に始まっている。話し合うも良し。外を探索するのも良し。モンスターと戦うのも良し。全て君たちの自由だ。私は職員会議があるので夜まで帰って来ない。好きに過ごしてくれ」
そう言った異形頭の教師は、扉を開けて外に出た。
ガラガラと扉の音が鳴った後、しばらく教室は嫌な静かさに包まれた。
僕はその間に空いている僕の席へと歩く。
しかし、その歩は途中で止まる。
「おい、いるんだろ? 出てこいよ、モンスター!」
1番後ろの席に座っている、体格の良い生徒が自分の机に足を乗せる。
彼は教室を見渡し、そして僕に視線が向いたところで彼は動きを止める。
「お前か?」
この教室で唯一立っている僕に疑いの目を向ける。
「え、僕じゃないよ!」
僕は手をパタパタと振って否定する。
「根拠は?」
「え?」
「お前がモンスターじゃない根拠は何だって聞いてるんだ!」
ガン! と足で机を上から打ちつける。
僕が根拠を言う側なのかよ、とは言い返せない。彼は怒っている。僕のような貧弱な体では彼にビンタされるだけで吹き飛ばされてしまうだろう。
何て言ったら納得してくれるのだろうか。
「黙っているだけじゃ分からないな! やっぱりお前がモンスターなんじゃねぇのか!?」
彼は立ち上がって僕にゆっくりと近づく。
僕との距離はさほど無い。
あと数秒もしたら僕は暴力を振るわれるのだろう。
僕は殴られる、もしくは蹴られる痛みを想像して足が震える。
逃げようか。それとも土下座しようか。
どうしたらその痛みから逃れられるか。
それしか考えることはできない。
だけど、モンスターが現れて隔離されたこの閉鎖空間で、僕が取る手段が将来的にどう影響するか。
それを考えてしまい、僕は下を向くしかできなかった。
しかし、いつまで経っても痛みは来ない。
「なんだ? お前」
「まぁまぁ、落ち着けって」
僕が顔を上げると、粗暴な男に比べると劣るが、身長が高く、鍛えられた体を持つクラスメイトが仲介に入っていた。
「もしかして、お前がモンスターなのか?」
「いや、違う。俺は根拠も言える。誰かスマホを持ってる人は樋口響也って調べてくれ。俺の子供からの写真とかが載ってるはずだ」
その言葉に従って僕もスマホで調べる。
「あ、ほんとだ。樋口くんって有名人なんだ」
ギャルみたいな派手な服装をしているクラスメイトの声に、樋口は満足そうに頷く。
「子役の頃から活動してるからね。ある程度の知名度はあるよ」
それにしてはテレビに出ているのを見たことが無い、と突っ込むのは空気が読めない発言だ。
子役の頃の写真は沢山あるから今は活動休止中とかそんな感じだろう。
「これで俺がモンスターじゃないという根拠は示せただろ?」
「あぁ、確かにそうだな」
「良かった。それじゃあ話し合いをしようじゃないか。ほら、みんな席に座って!」
ここで、モンスターは寄生タイプとかもいるから根拠にはなっていないと口出しするのは馬鹿がすることだ。
樋口の穴だらけの根拠のおかげで僕の疑いは有耶無耶になったのだ。全員ハッピーでいいじゃないか。今はモンスター探しより大事なことがある。
僕は大人しく席に座る。
「それじゃあ、まずは食料について話し合おう。自己紹介したいと思うけど、ちょっとお腹空いてきてイライラしてる人もいるから先に食料関係を決めておきたいんだ」
後ろの方の席から舌打ちが聞こえるけど、それ以上は何もない。意外だ。
「まず、現時点で何か食料を持っているという人はいる?」
樋口は1人1人と目を合わせるように、ゆっくりと教室を見渡す。
「……ねぇよ。今日は午前だけの予定だったからな」
「一応の確認だよ。まぁ、だけど彼の言う通りだ」
「大江慎吾だよ。彼なんて気色悪い呼び方するんじゃねぇ」
そう言った大江に樋口は微笑む。
「大江が言ってくれたように、この教室には食料がない。そして、今はちょうど12時くらい。みんなお腹が空いてきていると思うんだ」
樋口の言葉にみんな頷く。
俺も頷いた。
1日3食欠かさずに食べている健康児にとっては、今が1番お腹が空く時間だ。
「だからダンジョンマスターが言っていたガチャの存在を確かめたい。みんなどう思う?」
「賛成!」
「いいんじゃねぇか?」
続々と肯定的な言葉が出てくる。
「それじゃあ、外に出るメンバーを決めよう。誰か立候補者はいる?」
教室はまた静かになる。
僕も今度こそ目立たないように、みんなに揃える。
「俺が行く」
大江が軽い口調で言った。
「それはダメだ。大江にはこの教室の防衛を任せたい」
「必要ないだろ。ここは安全地帯だって話だ」
「必要だよ。さっきも言ったけどダンジョンマスターが本当のことを言ってるか分からないんだ。だから、外の探索は……そうだ、武器になりそうなもの持ってる人はいる?」
数秒間、また静寂の時間が生まれる。
「一応ナイフみたいな物は持ってるけど……」
小さな、しかし静かな教室には響き渡るくらいの声で発言した人物——僕に視線が集まる。
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