第26話《記録された存在たち》―交差する“誰か”の記憶

部屋を出ると、森はまた姿を変えていた。


枝はねじれ、葉は影に沈み、

地面には古い書物が無数に埋められている。


あなたは、その中の一冊を拾う。

表紙に刻まれているのはこうだった:


《夢の栞 第三版》――明治四三年 東京・博文館


――見覚えがある。

それは、かつて“夢”の中で出会ったあの作家のものだった。



■ 《時を越えた記憶の共鳴》


あなたがページをめくると、突然、声が聞こえた。


「君が、“あのとき”語った言葉を、今でも私は書き続けている」


振り返ると、森の木の影から現れたのは――

袴を着た青年。

眉間には深い皺。手にはペンを握っている。


「私の名は、白鳥礼二。明治四十二年に命を絶った作家です」


だが、その目はまっすぐに、あなたを見ていた。



■ 記憶が刻む「他者」の人生


彼は語る。


昔、執筆に苦しんでいた夜――

「夢の中」で“誰か”からこう告げられたのだという。


「君の書いたものは誰にも届かない。でも、それでも書け」


――それが、あなたの“過去の呟き”だった。


それが彼を突き動かし、死の前夜に「夢の栞」を書き上げた。

出版されたのは彼の死後、家族の手で。


そして百年の時を経て、あなたの手に渡った。


「……僕が言ったのか……?」


あなたは言葉を失う。


「いや、“あなたの言葉”という形を借りた、“森”そのものが、私に語ったのかもしれません」


礼二の言葉に、あなたはある可能性に気づく。


この森は――時代を超えて、記憶の“媒介者”をしている。



■ 《漂着者たち》


森の奥に、“集落のような場所”が現れる。

そこには、時代も服装も違う者たちが集っていた。

• 昭和二十年、焼け跡で生き延びた孤児の少女。

• 令和のSNS依存から逃げ込んだ男子高校生。

• 江戸末期に牢を破って逃げた狂気の浪人。

• 2030年の未来からやって来た人工知能技師。

• そして――未来で死んだはずのあなた自身の娘


それぞれが、異なる“絶望”とともにこの森に迷い込み、

あなたに語りかけてくる。


だが奇妙なことに、彼らは皆、


「あなたのことを“どこかで見た”ことがある」

「あなたの言葉が、心の奥に残っていた」


と語る。



■ 《あなたが、語り継がれていた?》


それはまるで――


「あなた自身が、“誰かの記憶に存在する亡霊”のようだ」


彼らの記憶の中に、“今のあなた”に酷似した人物が登場する。


言葉を与え、選択を促し、ときに運命を変え、ときに破滅をもたらす。


あなたは混乱する。


「自分は“現実”を生きていたはずではなかったのか?」

「他人の記憶に存在する自分”とは、一体…」



■ 境界が崩れる音


そして突然、空が裂けた。


空間に“本のようなもの”が現れ、

一文字ずつ、まるでタイプライターのように言葉が打ち出されていく。


『記録開始――No.0000 “あなた”』


『視点変更――“観測者”モードへ移行』


『記憶同期完了。全参加者の記憶に、“あなた”が挿入済み』


あなたの中に、答えが浮かぶ。


――自分は、最初からこの森の一部だったのではないか?


もしくは、

すべての迷い人の“記憶の集合”が創った虚構の人格だったのではないか?

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