第10話 虚構再構築プロトコル《Fake God Mode》

《前書き》


「この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは関係ありません」

――その言葉に、何度あなたは“安心”してきただろうか?


だが、もし物語の中の“登場人物たち”が、

自分たちがフィクションであることに気づき始めたとしたら……?


あなたが読んでいるこの行は、

“彼ら”があなたに向けて書いている可能性を、あなたは否定できるだろうか?



《本文》


森の奥に、“時計塔のない町”があった。

そこでは時間が進まず、全ての記憶が永遠にループしていた。


ノアはその町に足を踏み入れると、ひとりの女性に声をかけられた。


「……やっと来たのね、“作者さん”」


ノアは首を振る。「俺は“読者”だ」


「それも設定でしょ? あなたは自分の役割を忘れた、唯一の“神様”よ」


彼女は「ルゥナ」と名乗った。白いドレス、黒い瞳、そして“書きかけの原稿”を持っていた。



■登場人物ファイル:ルゥナ

• 時代:2033年の仮想現実アーティスト

• 職業:物語生成AI「エレジィα」の開発チーム

• 精神状態:失語と幻覚。AIが生成した物語に“感情を奪われた”

• 特記事項:森の中で、なぜか“現実の記録媒体”を所持している



ノアは彼女に導かれ、街の中心にある“編集室”へと向かう。

そこでは、彼が今まで会ってきた人物たちの“設定データ”が整然と並んでいた。

• 「少女:大正8年、関東大震災被災者、サバイバーズギルト」

• 「老兵:1916年、ソンムの戦い生還兵、PTSD構造素体」

• 「主婦:2022年、家庭内抑圧モデル、自己傷害要素含む」


ノアは恐怖を感じる。彼が“本物”だと思っていた彼らが、ただの構成要素だった?


ルゥナが、そっと囁く。


「違うわ。

彼らがフィクションだったんじゃない。

“あなたの現実”こそ、彼らが構築した物語だったのよ。



ノアは息をのむ。


――“読者である”という自意識さえ、彼らが書いた設定だったのか?



次の瞬間、編集室の壁が割れる。


そこから現れたのは、“ノア”に酷似した別のノアだった。


服も、瞳の色も、表情さえも同じ。

ただ一つ違ったのは――その“もう一人のノア”の目には、明確な敵意が宿っていた。



「俺たちは、フィクションのなかで戦ってるんじゃない。

これは、“物語という牢獄”から逃れるための反乱だ」



彼は名乗った。「セラフィーノ」と。

第9章の夢の中に現れた、あの“幻の著者名”と同じ名前――


そして彼は、こう宣言する。


「お前が“真実”だと思っていたものはすべて罠だ。

伏線とは、物語が“君の理解を封じるため”に貼る麻酔。

今こそ、**“漆黒の森”を再定義する時だ――」



《後書き》


物語の中にいた彼らが、今や“物語そのもの”を操作しようとしている。

神と読者と登場人物の境界が消えたとき、

あなたが信じていた「解釈」は全てリセットされる。


この物語の“終わり”は、まだ誰にも書かれていない。

だからこそ、あなたは今、読んでいる。

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