第四章:ふるさと
第29話
〇土倉啓路・3
年増女を殺し損ねてしまった。
悔しさのあまり、はらわたが煮えくり返って沸騰中。荒ぶる
大人の女は大嫌いだ。
顔も名前も覚えられないし、覚えていたくもない。
それなのに、あの年増女の姿が脳裏にこびりついている。殺せば拭い去れると思ったが作戦失敗。汚れは余計に広がってしまった。
何故これほど色濃く印象に残っているのか。
年増のくせに童顔で、オレの好みに近いのが原因かもしれない。賞味期限切れのくせに見た目だけ若々しく取り繕いやがって。パッケージ詐欺だ。女体は鮮度が命であり、時期が過ぎれば無価値の存在だというのに。
「そういやぁ、昔おいしく頂いた奴に似てる気が……」
大学生時代のことだ。
地元八手ヶ丘にて、地域貢献を理由に塾の真似事を催していた。丁度食べごろの小学生が集まって選り取り見取り。勉学を教えて親密度を高め、最高潮のタイミングで睡眠薬を盛る。後は気兼ねなく悪戯し放題だ。無抵抗な幼子を隅々まで堪能する。爆睡中、弄ばれているとは露知らず。事後に違和感を覚えたところで、築いた信頼故に疑われる可能性はゼロに等しい。過去最高の完成度を誇る狩場だった。
色んな女児を味わってきた。
中でも一番楽しめたのは、八手ヶ丘の嫌われ者――村八分にされた女ケ沢家の娘との一夜だ。薬の効きが悪く途中で起きてしまったが、代わりに
そうだ。年増女と村八分の娘は、どことなく似ているのだ。不思議と印象に残ってしまうのも納得できる。
だが、躾の一夜は黒歴史でもある。
あの娘と不愉快な仲間達のせいで、オレは――海東勇は、臭い飯を食わされたのだ。
あり得ない事態だった。海東家あっての八手ヶ丘。
しかし、事態が街の外に拡がるのは想定外だった。まさか連中が告発動画を作るなんて。全国あるいは全世界を巻き込んだネット炎上は、さすがの海東家でも消火不可能。規模が段違いである。
以前のヘマがもみ消せたのだ。今度も大丈夫だろう、なんて高をくくったのが間違いだった。顧問弁護士も役立たずだ。頑張って懲役五年とは何事か。大金を
黒歴史において最も辛かったのは、数多の秘蔵コレクションを失ったことだ。
証拠品として私物が押収されれば余罪が白日の下に晒されてしまう。間違いなく再逮捕のわんこそば状態になる。そこで泣く泣く隠滅の選択を取った。といっても、俺自ら処分した訳ではない。父の計らいでシルバー人材センターから老人を雇い、ハードディスク諸共パソコンを破壊させたのだ。息子の部屋を掃除しようと善意で派遣したら、
だが、このままではまずい。せっかくのコレクションがまたもや消失してしまう。それどころか前科二犯コース直行だ。なんとしても避けないと。
再び父に助けを乞うべきか。いや、無理だろう。出所時「ほとぼりが収まるまで大人しくしていろ」と言われたのに、今度は隣県で問題を起こしたのだ。海東家の力をもってしても隠蔽は厳しい。
「畜生、なんでこうなるんだよ」
己の詰めの甘さに歯噛みしてしまう。
八手ヶ丘の勉強会だってそうだ。睡眠薬の効果を過信していたのもさることながら、目が覚めてもなお悪戯し続けるという安易な選択をした。口八丁で誤魔化せばよかったものを。しかも相手は被虐待児だ。保護者経由で露見する可能性は低く、ちょっと優しくすれば簡単に丸め込めただろうに。子ども相手の暴力は楽しかったが、代償は計り知れないものになってしまった。一夜の過ちにも程がある。
オレの何が悪いと言うのか。
八手ヶ丘の発展に寄与し続ける海東家。その嫡男として生まれたが故に、死ぬまで故郷に尽くす
献上されし女児を
一般の小児性愛者が事に及べば犯罪だが、オレはルールを作る側の人間なのだ。裁きの対象外であり、その他大勢とは一線を画している。
不公平だなんだと喚く馬鹿もいるだろう。だが、これが世の理だ。人は皆平等だなんて耳に心地よい綺麗事に騙されて、まったく哀れな連中である。
だというのに、女ケ沢愛音と不愉快な仲間達は不文律を破った。社会の仕組みも知らぬ
従順だからこそ、オレは子どもが大好きなのだ。弱者は
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