第7話 ローレンさんの煩悶
「ちょっ、まっ…えっ?! なんで?!
ただの一目惚れじゃないの?!
僕は見た目通りの人間じゃないよ?」
「早過ぎるって言うなら、オットーさんだってそうじゃないですか」
「そ、それはそうだけど
…抱きつきながら上目遣いで言うの反則でしょ?!」
「そ、そりゃこっちは158㎝だし、ローレンさんは180はあるんだから上目遣いになるのは仕方ないでしょう!」
「でも抱きつくのはズルいじゃん…
だって、正直ずっとこうされてたいけど
…これじゃ、きみをネコとして気持ちいいとか可愛いとか思ってるのか、人間の女性部分として思ってるのか、自分でもわからないよ…」
「お互い好きなら、どっちでもいいじゃないですか!」
「バイオレットさんが良くても、子供を作りたい僕からしたら大問題!
それに、仲間に求婚されてる女性を最終的にペットみたいな扱いにするとなったら、後ろめたすぎるでしょ!」
「ああ、そうか、そうですよね
…でも、それこそ返事は最後の最後でいいので、じっくり考えてください」
「…わかった」
「ふふっ、これで他の女性に堂々と嫉妬する権利ができましたね。
どっちの意味で好きなのかじっくり判断する為にも、今日は私をモフモフしながら寝ませんか?」
「えっ?
…あっ、まあネコなら普通のことか
…可愛い顔して猛禽類だなあ!」
と言いつつ、ローレンさんは胸とお腹の間あたりに手を回してきた。
「ほんとズルいよ、ネコのあったかさと柔らかさには抗えませんよ。
今日こうしなかったら、明日はカミール、明後日はオットーの部屋に行っちゃうんだしさあ!」
「持って生まれた武器を、欲しいものを得る為に使って何が悪いんですか?
ローレンさんだって、その見た目だから音楽活動を有利に進められてるし、芸能人の女性とでもすぐに、付き合おうか!って話になるんでしょう?
女性からしたらネコばりの凶器を持ってますよ?」
「…そうだね」
私の顔は彼の胸板に収まる。
もし結ばれなくても、悔いはない。
最初みたいに何もせずに終わって後悔するよりいい。
…今はただ全身で、彼の恍惚の視線と、この硬い感触と、好きな人に撫でられる幸せをめいっぱい楽しんでおくだけ。
「うにゃ…」
こちらからも腕を回す。
「完全な人間ならあざとすぎるぞ、それ…」
窓の外から聞こえてくる激しい雨音が、布団の中の暖かくて密な世界を、より甘やかにした。
次の日、目を覚ますと、ローレンさんは隣で頭を抱えていた。
「どうしました?」
「何もまずいことはない、寧ろすっごくあったかくて幸せな気持ちで寝られたんだけど
…どっちなのか余計わからなくなった!」
「じっくり考えてくださいね」
「じゃあ考える材料として聞くけど…
ネコの獣人って、ハミング王国にいるとは知ってても今まで深く接したことないんだけど、どういう生態なの?
人間とネコがその…したら産まれるの?」
「どんな組み合わせの人間とネコでもって訳じゃありませんよ。
700年前、戦争で男性が減って悶々とした女性達の一部が出来心でオスネコを受け入れてしまい、偶然にも遺伝子が適合して出産に至ったという経緯だそうです。
母親は全員ハミング人です、ハミング人だけが遺伝子が適合するのかもしれませんね。
さすがに近年はそんなことをする人はそうそういなくて、今いる私みたいなガッツリした獣人は、獣人同士の子供が大半ですが」
「なるほど…
じゃあバイオレットさんが人間と子供を作ったら、その子は4分の1ネコってこと?」
「そうなりますね」
「そっか…うーん…
まあ、僕とバイオレットさんの子供なら、ネコ混じってたって可愛くはなるとは思うけど…」
どきん。
「オットーにはこういうこと聞かれてないの?」
「ないです」
「マジか…どんだけ覚悟決まってるの、それともネコ好きだから問題とも思ってないのか…
どっちにしろ、そんなあいつを差し置いて僕がバイオレットさんと結ばれるなら、遺恨が残らないように相当な覚悟を決めないといけないね…」
そっか、そうだよね…
私が誰と結婚しようが、ローレンさんとオットーさんは仕事で太く長いお付き合いになるんだもんね…
でも…
「そんなに真剣に考えてくださるなんて、嬉しいです!」
「いやもう、ほんっとーにズルいって!
ネコだから抱きつき放題なんだもん!」
「お嫌ならやめますよ?」
「もう!」
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