第8話 ルイスのポテンシャル
この日の宿場帳には、ボブが、
ハイド(28)
ミレイ(24)
レックス(32)
サム(13)
と書いたので、珍しくローレンが少し怒った。
ローレン「まったく、どんだけハイドって名前が好きなんだよ! 敵に足取りがバレたらどうすんだっ!
もうハイド禁止! というか僕が毎回宿場帳を書くっ!」
ボブ「そんなあ」
でもすぐ仲直りをしたらしく、隣の二人の部屋からは、ドンチャンドンチャンという振動と、大きな笑い声が聞こえてきた。
アナベル「絶対カラオケやってるね」
ルイス「ローレンさんはいつものアレを歌ってるのかな…」
アナベル「アレ、絶対カラオケに入ってるもんね、一応ヒット曲らしいから。
最初はびっくりしたけど、なんだか癖になるもんね」
ルイス「ある意味オリジナリティというか、アーティスト性だと思う…」
アナベル「知ってる?ボブは正統派に上手いのよ」
ルイス「えっ…
あんなに明るくてバイタリティあって、しかも歌まで上手いんだ…
僕の立つ背がないなあ…」
アナベル「ルイスも歌の練習してみたら?
ボブだって5年前は上手くなかったし、今からならルイスはもっと伸び代あるわよ」
ルイス「いいです…恥ずかしいんで…」
ルイス「では、お休みなさい」
アナベル「ちょ、なに床に雑魚寝しようとしてるのよ、ベッドで寝なさい」
ルイス「いやいや、姫様のお隣で寝るなんて畏れ多い」
アナベル「ローレンもボブも隣で寝たわよ」
ルイス「ええ…
ボブさんは重症だったから仕方ないけど、ローレンさんは…
これだからイケメンは…
モテて、人から拒絶されることが少ないからって、初めて会ったその日に姫様の隣で寝るなんて、ナチュラルに図々しい」
アナベル「そっか、私のこと敬ってくれているのね。
でもね、これは命令よ。
雑魚寝で疲れが取れなくて、いざという時に力が出なかったら、そっちの方が私に失礼よ」
ルイス「…それもそうですね!」
ルイスは珍しく、屈託のない笑顔を見せた。
アナベル「別に、これだからイケメンは〜なんて、言うことないと思うけどなあ」
ルイス「えっ?」
♩どんなに願ってももうあなたはいない
どんなに夢見ても 会えるのは夢の中だけ
微かに聞こえてくる、哀愁漂う優しい歌声に眼を覚ますと、
月明かりの下で、ルイスが気持ちよさそうに歌いながら絵を描いていた。
あっ、目が合っちゃった。
ルイス「…はっ!」
アナベル「なに描いてたの?」
ルイス「…これです」
私の寝顔だ!
ルイス「へ、へ、変な意味じゃないです!
美人画というやつです!」
アナベル「目指せモナリザね。素質あるじゃない。
…歌もね。
何を恥ずかしがることがあるんだか。
宮廷に帰れる日が来たら、是非ちゃんと歌ってよ」
ルイス「へ、へへへへっ。
そうですね、そんな日がまた来てくれた暁には、必ず」
ローレン•ボブ「おはようー」
ルイス「…あっ、ごめん、今朝は果物ない」
ローレン「いいんだよ、いいんだよ!
姫様と同室の日は、しっかり隣で見守ってないとね!」
ボブ「そうそう、若いのになかなか分かってるじゃん」
私とルイスは照れ笑いしながら顔を見合わせた。
それから半年後。
私は寝込みを、宿屋の窓から入ってきた4匹のヴァンパイアに攫われた。
アナベル「んあっ!」
ヴァンパイア白「ひっひっひっ、バカな仲間を持ったよなー。まともに護衛もできね〜の」
アナベル「あーっ、ボブううう、この期に及んで私になるべくすっぴん見られたくないからって、また先に起きてメイクに立って、私の脇を離れたわねーっ」
ヴァンパイア黒「くっくっくっ、本当にいい匂いがしやがる。
お前、おかしなもの持ってないだろうな?
…うわっ、カミソリ入りの扇子なんて持ってやがる! このクソアマが!」
扇子は車から投げ捨てられてしまった。
ヴァンパイア金「今『本部』に連絡したからな、お前さんの血を味わいたい連中が、懐かしの宮廷にわんさか集まってるところさ」
長い長い帰路の後に辿り着いた我が家は、すっかりヴァンパイアどもに占領されていた。
あんなに煌びやかだった宮廷は、管理が行き届いてないからなのかヴァンパイア達の持つ雰囲気なのか、薄暗い雰囲気を讃えている。
地下室は牢獄にされていた。
ヴァンパイア銀「全員集まるまでここで待ってろ」
父上、母上、使用人のみんな!
アナベル「なぜそんなに傷ついた姿を!」
父上「アナベルの居場所を吐けと、半年間拷問に遭い続けたのさ… 本当に知らないものを吐くも何もないのにな。
でも、これぐらい平気さ…」
母上「そうよ、これから夥しい数のヴァンパイアに全身の血を吸われて命を失うかもしれないアナベルに比べれば…
代われるものから代わってやりたい…」
アナベル「そんな…」
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