幕間:またもや帰還の馬車にて
ろくに休まず動き通しだったためか、シアは馬車の中で、イサムの肩に寄り掛かって眠っていた。穏やかな寝息に混じり、ぽつりぽつりと寝言が聞こえる。
「勇者様……来てくれて、ありがとう……」
(はーい、勇者イサムはここに居ますよー)
ついつい聞こえてしまう寝言に、イサムは心の中で相槌をうっていた。
「勇者様……一緒に居てくれてありがとう……」
(はーい、ちゃんと居ますよー)
「勇者様……戦ってくれて、ありがとう……」
(はーい。頑張って戦いますよー)
「勇者様……勇者様……」
(……ほんとにオレの事ばっかりだな、この子……)
聞こえてくるのは自分のことと、ありがとうという言葉ばかり。
イサムはシアを起こさないよう、照れ隠しのために後頭部を掻いてばかりだった。
「勇者様……私が守ってみせます……」
(……ありがとう。オレも君を、守るよ)
強く思いながら、イサムもゆっくりと眠りに落ちていった。
聖域の村から逃げての、一連の旅路は、二人にとって短くとも濃密で、仇敵を穏やかに見送った後の、この帰り道だけが、唯一静かで心温まる時間だった。
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