第2話:勇者が呼ばれた、理由と状況
「というわけで、
「うおっと、いきなり来たな。びっくりしたぞ爺さん」
シアに手を引かれ移動した直後、イサムの目の前に一人の老人が現れた。
「ほっほっほ、これは失礼。我が孫娘のはしゃぐ声が響いてきましたのでな。おそらく、勇者様召喚の祈りが通じたのだろうと思い、駆けつけてきたのです」
「あなたも、オレを勇者と呼ぶんですね」
「当然でしょう。
「と言われてもなぁ……こっちは色々わけがわからんので……」
頭の裏をかきながら首を傾げるイサムを見て、老人は語り始めた。
「そうですなぁ……まずは我々の世界の話を。と言っても単純でしてな。今この世界には、我々がいる
「この島と、大陸一つだけの世界?」
「はい。ブラックナイトと名乗る者が、神を超えるために世界を創り変えると、世界各地を消していきましてな。抵抗できているのは西の大陸の王国と、結界を張ったこの聖域の村、二つだけなのです」
「ブラックナイト……さっきシアも、その名前を言ってたな」
イサムが名を口にしたことで、シアが震えるように語り始めた。
「そうです。ブラックナイトと名乗るものが、凶悪な配下を従え、ある日突然、世界を少しずつ消し始めたのです。それと当時に
「なるほど。そのお告げのとおり現れたオレが勇者で間違いなく、ブラックナイトを倒す使命がある、と?」
「私は、そうだと信じています。隣りにいる今でもはっきりと正しい力の持ち主だと感じられますから」
「うーん、そう言われてもオレ個人にはなんの実感もないんだよなぁ」
「でしたら、まずはあそこへ行きましょう! 勇者様が、勇者様である間違いない証を手にするために!」
そう言いながら、シアはイサムの手を取り、一緒に歩きだそうとした。そばにいる村長も——
「そうですな。それが一番、勇者様にとってもわかりやすいでしょう」
と言って、イサムとシアの二人の背を押すように歩き出した。
「おっとっと、わかったから、慌てないでくれ」
そうして歩きながら、イサムは周りを確認していた。
現代の高層ビルよりも高く大きい一本の樹の周りに森ができ、その中で木を使った家や葉で作ったテントのようなものがチラホラとあった。
それなりの数の住人がいるようだが、皆イサム一行を見て祈るように頭を下げる者、笑顔を浮かべて手をふる者など、全員に歓迎されている、明るい賑やかさが満ちていた。
その空気が、実らぬ就職活動で無自覚に疲弊していたイサムの心と体を癒やしていく。
(ああ、綺麗な森だ。こんな気楽に散歩するのなんていつ以来だろうか)
と、イサムぼんやり考えていたところで、三人の足が止まり、シアが声を上げた。
「これです! これが勇者様の証!
「こ、これが……!?」
シアに言われ目的のものを確認したイサムは、思わず目の前の大地に刺さったものの感想を叫ぶ。
「これ、ただの剣道用の木刀にしか見えないんだが!?」
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