勇(者)ちゃんクエスト~誕生日にもらった自作ゲームを起動したら、その世界に転移していたらしい~

本宮はるふみ

第1話:誕生日に起きた不思議な出会い

 日本のあるところに、西勇ニシ・イサムという男がいた。

 彼は身長百七十四センチ、体重六十八キロで、祖父から習った剣術以外に目立った取り柄がなく、就職活動に苦戦中の大学生である。

 髪を七三分けのツーブロックに整え、四角いアンダーリムのメガネに視力を頼り、フォーマルスーツを着て大学と企業説明会を往復する中々に忙しい毎日だった。

 そうして二十二歳の誕生日当日も、同じように大学の授業と企業説明会を経て、くたびれながら自宅にたどり着くと、郵便受けに小包が入れられていた。


 二十二歳になった君へ、夢を込めて。


 小包にはそう記載されているほか、裏面にK・Bと名前のイニシャルらしきものが書かれているだけだったが、イサムはそれだけで内容を理解していた。


(ああ、ゲーム学科の坂東ばんどうが送ってきたんか)


 小包を自室まで持って帰り開封すると、USBメモリが一つだけ入っていた。

 パソコンに繋いで中身をみると、イサムが思った通り、ゲームアプリがあった。

 

(もう夜の十時……まぁ、明日は休みだからちょっと遊んみるか)


 そうしてアプリの実行ファイルをダブルクリックした瞬間——


(!!? 急に画面が光って——)


 イサムは思わず両腕で顔を覆うように隠し、光が収まるまで動けずにいた。あまりにも眩しく、長く強い発光だったのでどうしようかと悩み始めた、ちょうどその時、聞き慣れない声がイサムの耳に響いてきた。


「ゆ、勇者さまですうううううううううう!!」

「え、なに? なんだって?」


 声に驚いてイサムが顔から腕をおろすと、いつの間にか光はなく、小柄な少女が目の前に立っていた。

 身長はイサムより二十センチほど低いだろうか。

 純白のフード付きローブからは浅葱あさぎ色の長いストレートの髪が腰くらいまで伸びており、色白の透き通った肌に、細長い耳はファンタジー作品に出てくるエルフというものをイサムに想像させた。

 その浅葱あさぎ色の髪と同じ色をした綺麗な瞳が、まんまると見開かれ驚いた様子でイサムを見つめていた。


「勇者様……本当に勇者様を召喚できました!」

「ちょ、待って、待ってくれ! 一体なにを言って——」


 はしゃぐ少女をなだめようとしたところでイサムは気付いた。周りの景色が自分の居た部屋とは全く違う、不思議な石造りの部屋になっていたのだ。


「なんじゃぁこりゃああああああああああ!?」

「はわっ!? ご、ごめんなさい!!」


 異変に気づき冷静さを失ったイサムの代わりに、少女が冷静さを取り戻した。


「失礼しました勇者様。急にこの世界に召喚されて色々わからなかったり、戸惑ったりしてしまうと思います。ですが、どうか聞いて下さい」


 少女の真剣な声色がイサムを落ち着かせた。しっかりと向き合ったイサムに対して、少女は話を続ける。


「まずは、自己紹介を。私は巫女のシア。世界樹ワールドマザーに仕え、この世界を救う勇者を導く役目を担うものです」

「聖女シア、さん?」

「シアで構いません、勇者様。この世界は今、ブラックナイトと呼ばれる邪悪なものに皆が苦しめられています。その悪に打ち勝てるのは、世界樹ワールドマザーに選ばれ、私の呼びかけに応えてくれた貴方しかいないのです」

「勇者? オレが?」

「はい。貴方が」

「なにかの間違いじゃなくて?」

「間違いではありません。貴方からは確かに、勇者としての力を感じます」


 真剣に訴えるシアをよそに、イサムの頭はぼんやりとしていた。真夜中にゲームを起動したのがいけなかったか? あの強い光で夢か幻覚でも見ているのだろうかと考えていたのである。だが——


「とにかく、色々説明や案内したいことがございます。一緒に来てください!」

「えっ!?」


 シアにそう言われ、手を引かれた瞬間に頭は切り替わった。少女に握られた手の確かな感触が、これは夢でも幻でもないと確信させたのだ。


「そうですね、まずは……私のおじい様を紹介しましょう! 世界樹ワールドマザーを守る聖域の村を案内しますね!」

「あ、ああ。わかった。よろしく頼むよ、シア」

「はい!」


(ひょっとしてこれは……異世界なんちゃら系ってやつだったりするんか?)


 かくして、イサムは少女シアと出会い、不思議な旅の一歩を踏み出すのだった。

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