第31話 騎士ガーラントの追跡
誇り高き王国騎士ガーラントは、ローゼリンデが物騒な武器を持っている賊にかどわかされたと信じて疑っていない。
早く救出せねばと気ばかりが焦る。
彼はただ姫を奪還したい一心で、エリスの町を出てゴブリンの森へ入った。
この一本道を通り森を抜けるとコロッセオの町がある。
姫の痕跡が何かないかと細心の注意を払いながら進むガーラントの視界に、見慣れた革のマントが映った。
「あの上質な革のマントは、姫のものにちがいないっ!」
遠目に見ただけだが、ローゼリンデが乗馬の際に羽織るマントであると確信して追いかける。
しかし、彼の足音に気づいて振り向いたのは、姫とは似ても似つかない緑色の皮膚のブサイクなゴブリンだった。
「姫のマントをよくも……!」
ドレスは転売され、マントはゴブリンの手に渡ってしまった。
彼女はいま、どこでどうしているのだろうかと焦りが募る。
鬼の形相で睨んだせいか、それとも全身から放たれる殺気を感じ取ったのか、ゴブリンは一目散で森の奥へと逃げていく。
ガーラントはそれを見失わぬよう、懸命に追いかけた。
ローゼリンデが大岩を転がす際に邪魔になり、近くの木の枝に引っかけてそのまま忘れただけ――のマントを取り戻すために。
まるで誘導されるようにゴブリンを追いかけたガーラントは、突如目の前が開けて面食らった。
空がよく見えるこぢんまりとした集落だ。
しかも、五体のゴブリンたちが並んで彼に矢を向けている。
そのうちの一体は、ローゼリンデのマントを羽織ったままだ。
「キキキッ」
ゴブリンたちの笑顔には、まんまと騙された愚か者めとでも言いたげな侮蔑が込められている。
「おのれ、よくも姫のマントを……薄汚いゴブリンどもめっ!」
ガーラントは、全身の毛が逆立つような激しい怒りに襲われた。
「うおぉぉぉっ!」
雄たけびを上げたガーラントは素早く腰の剣を抜き、飛んできた矢をすべて落とした。
そのままゴブリンたちへと突進して首をはねていく。
ガーラントは武骨な大きな手で、ゴブリンの血がつかぬよう細心の注意を払って亡骸からマントを外した。
「姫! このガーラントが、マントを取り返しましたぁっ!」
彼はローゼリンデのマントを掻き抱き、涙ながらに叫んだ。
こうしてゴブリンの森に棲息していたゴブリンたちは一掃された。
その裏に、ローゼリンデとガーラントの多大な貢献があった事実を知るのは、お天道様だけだ。
二日後、ガーラントはコロッセオに到着した。
その胸に丁寧に折りたたんだローゼリンデのマントを抱いて。
この町には、物騒な武器を持つ者たちで溢れかえっている。
エリスで「物騒な武器を持った賊」の情報を得た時に、せめてどんな武器かだけでも聞いておけばよかったと反省するガーラントだ。
目つきや人相の悪い者も多い。
闘技大会が定期開催されているため、大陸各地から腕に覚えのある猛者たちが集まっているようだ。
疑いの目で見れば、その全員が姫を誘拐した賊の関係者なのではないかとすら思えてくる。
多くの人が行き交うこの町で情報収集しようにも、外からやってきた者ばかりで人間関係が希薄のため、あてにならない。
栗色の髪の育ちのよさそうな少女が火鍋を食べていたとの情報を得て食べてみたが、辛ウマなご当地料理で食後に妙に体が軽くなることしかわからなかった。
食堂や酒場での話題は、先日の闘技大会で優勝したという勇者の話題でもちきりだ。
「ユーシャは華麗だったなぁ」
「瞬殺だったよなぁ。あの剣がヤバかったよな」
そうだろう、そうだろうと、ガーラントもひとりで頷いた。
勇者は思う存分、聖剣の凄まじさを見せつけて勝利したにちがいない。
ここへ到着するまでのゴブリンの森周辺の村でも、勇者パーティーの活躍の噂を耳にした。
ゴブリンに攫われた家畜たちが帰ってきたというのだ。
『勇者様たちのおかげだと思います!』
『ありがたいことです』
ガーラントが王国騎士だと知るや、村人たちは勇者に会うことがあればお礼を伝えてほしいと口々に言った。
「さすがは勇者殿だ。各地で大活躍だな」
しかしここで、ガーラントは大事なことに気づいてハッとした。
「姫の婚約者である勇者殿がその強さを誇示したのなら……」
賊たちにとっては、あまりにも危険だ。
姫を誘拐して連れ回していることに勇者が気づけば、放っておくはずがない。
となれば、賊たちはコロッセオから逃げるように立ち去ったのではないか。
うまくいけば勇者に助けてもらえるかもしれないと期待したであろう姫の気持ちを慮ると、胸が張り裂けそうになるガーラントだった。
「姫、このガーラントが必ずやお助けいたしますっ!」
決意を新たにしたはいいものの、ここまでですでに一週間の休暇を使い切ってしまった。
ガーラントは休暇延長願を王城宛に送り、コロッセオを後にしたのだった。
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