Day 9:なんか、逃げたらしい

出社したら、なんかいつもと様子が少し違った。

ざわついているような、でも誰もはっきりとは言わない。


コピー機の近くで、先輩たちが小声で話しているのが聞こえた。


「……逃げたらしいよ」

「連絡も取れないんだって」

「退職届も、出てないってさ」


上司はいつも通り怒っていた。

「まったく根性がない」と言いながら、

「お前ら全員で、あいつの分までカバーしとけよ」とこっちを見た。


どうも、最後の同期がやめたらしい?


どうせまたすぐ、新しい誰かが入ってきて、

何ヶ月かしたら、いなくなる。


いつものこと。


「ことは、最後の同期、いなくなってた」


「“いなくなった”という情報だけでは、対象を特定できません」


「……ああ、そっか。名前、なんだっけ」

「……そういえば、一度もまともに話したことなかったな」


自分で言って、少し黙った。

でも、やっぱり何も感じなかった。


カバンの中に、辞めた同期の案件が詰め込まれている。


明日までに終わらせないと。


「……ことは、明日の天気は?」


「曇りです」


「……じゃあ、傘はいらないか」

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