第22話 警察の役目
メッセージはそれで終わりだった。
「……何回引きこもったら気が済むのよ、あんの愚か者がぁぁぁあ!」
突然上を向いた神崎さんが吠える。しかも息の続く限り叫んだあと、両手の拳で机に思いっきり八つ当たりした。……ちゃんとした大人のブチギレ、すさまじい!
「こほん、失礼いたしました。続けてください」
バラバラな方向へ仰け反った俺たちをよそに、本人は澄ました顔で座り直している。伯父さんが一番ダメージ受けてそうだよ。目をひんむいて俺に抱き着いたまま、凍り付いたように動かないんだから。
「机は叩かないでくださいね」
部屋の空気を解凍してくれたのは、奥園さんの朗らかな声だった。
「今のは見なかったことにしますが、場合によっては暴力の扱いになりますから」
「すみません」
神崎さんって、もしかして俺と似た部類だったのかな。ときどき急に溜め込んだものが爆発する闇落ちタイプ。
奥園さんがパソコンを閉じた。
「話を戻します。聞いていただきましたように、主犯の神崎陸は次の犯行へ向けた準備を進めているようです。それは我々警察が対処します。……が、彼は皆様のことを意識している。特にあなた方四名」
もちろん、その四名は俺たち中高生メンバーである。
「神崎陸は『手を出さない』と言っていますが、信じられる根拠もありません。皆様は顔を知られている。七村君は身元まで割れている。やはり危険が及ぶ、もしくは犯人側が接触してくる可能性を考え、こうして未発表の情報までお伝えしたのです。今後しばらくは警護を付けさせていただきます」
「しばらくって、どのくらいですかー」
「内緒です。生活の邪魔はしませんのでご安心を」
にっこり笑って言い切られた。
「警護が外れた後も、くれぐれも身辺には気を付けて。少しでも気になったことは迷わず連絡してください。そして何より『自分たちの手で対処しよう』とは絶対に思わないこと。それは警察の役目です」
今日の目的が分かってきたぞ。俺たちの身が危険というのも本当だけど、「勝手にヒーローみたいな真似をするな」って釘を刺したかったんだろう。
俺だってヒーローなんかなりたくないよ! ……って思った瞬間。奥園さんが鋭い視線で俺たちを素早く射抜いた。
「皆様は特殊なアイテムをお持ちのようですからね。使ってみたくならないとも限らないでしょう?」
車椅子、首、腕、耳。刃物みたいな視線が順番に危険物を突き刺してゆく。それらは全て、つい二日前に使われたばかりだ。
「どんなに優れた道具を持っていても、それを使うのは不完全な人間です。自分自身が強くなったと勘違いしないように。自分の考えた使い道こそが正しいと思い込まないように。それを忘れてしまった時、あなたたちは向こう側の人間になるのですから」
この人はきっと、元から神崎さんと伯父さんの協力者……いや、会社側が警察に対して特殊な協力をしてきたのかもしれない。だから俺たちのアイテム使用も大目に見てもらえてるんだ。明らかに取り締まり対象の危険物なのにさ。
「本日は以上です。ご協力ありがとうございました」
最後まで人当たりの良い笑みで見送られ、俺たちはゾロゾロと警察署を出て行った。帰りも送ると言われたのは断ったよ。今は自由が欲しくてさ。
一歩外に出たら灼熱地獄。爽快さの欠片もない空気の中で、後藤さんが大きく伸びをした。
「あっさり帰らせてくれたな。警護を付けるって言いながら、後から担当者を家に向かわせますなんて」
「警護って名目の監視っしょー。わざと泳がせて、今も物陰から誰かが見てるんじゃね?」
思わずキョロキョロしてしまったけど、それっぽい人が見つかるわけもない。
「さて、みんな。巻き込んで本当にごめんなさい。落ち着いたらお詫びするから、今日は会社に戻らせてちょうだい」
神崎さんが手を合わせて拝むように言った。この人も本当は被害者なんだけど、被害者の顔をしていられる立場じゃないんだろうなぁ。
「じゃあ瑠衣、代わりに僕がみんなを食事に……」
「あんたも戻って作業の続きよ!」
伯父さんの方はあんまり可哀想に見えないのが不思議だ。ショックな顔を隠そうともしない性格が原因かな。
「ちょっと伯父さん。ここで頑張って働かないと、本当にリストラされるかもよ。これから会社の経営も危ないんだろうから」
「よく言ったわ、樹生君! 人員削減の対象にされないよう活躍なさい!」
「せ、せめて樹生を家に送るところまで。そしたら会社に戻るから! せめてもの情けを!」
勝手に俺をダシにした結果、武士の情けがかけられた。
「その寝不足状態でハンドル握るんじゃないわよ? 自動運転に任せること」
神崎さんは速足で自分の車に乗り込んでしまった。他の三人もここで解散らしい。一緒に乗って行けばと言ったんだけど、用事があるんだって。
「樹生も疲れてんだろー。糖分取れよー」
高坂さんが去り際にキャラメルを箱ごとくれた。
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