第14話 機密事項

「まあ、さ。こんだけの騒ぎ起こしたなら、しばらく行かなくて済むっしょー?」


高坂さんの言葉に全員が頷いた。一番激しく頷いてるのは鈴花さんだ。


「そんなの無理して行かんでよろしい! 連れて行かれそうになったら、その前にお姉さんが誘拐したげる!」

「お姉ちゃん、本当にやったら通報するからね」


この姉妹は仲が良いのか悪いのか分からないな。他人が深入りすると危険な気がする。


「ひっどい妹だなー。鐘花だってよく、チャリで十五分のウチに避難しに来てんじゃないのよ。逃げ場って必要なの分かるっしょ?」

「泊めてもらう代わりに掃除洗濯してあげてるよね。あの溜め込み方やめてよ」


……うん? チャリで十五分って言った?


「あの、それってかなり近いんじゃ」

「そだよー。住所で言えば同じ市内だし、その気になれば毎日夕飯食べにも行ける。行かないけどさ」


俺の疑問は言わなくても分かったみたいだ。というか、よく人から同じことを言われているのかもしれない。


「私は金で自由を買ってんのよ。他人からは変に見えても、私にとってはライフライン並みに必要なの」

「その割にはよくご飯食べに来るよね。毎日ではないけど、月に何回も」

「離れて暮してるから良い関係でいられるんだってこと、分っかんないかなー。中学生には難しいのか。故郷ふるさとは遠きにありて思うもの、なんつって」

「いつも突然押しかけてくる姉に、そういう面倒くさい酔っ払いみたいな発言を聞かされるたび、私も早く一人暮らししたいなって思うよ。飛行機じゃないと行けないくらい遠いところで!」


姉の危ない発言にすかさず入る妹のツッコミ。平井さんは大変そうだけど、これで良いコンビなのかもしれない。

 凸凹でこぼこ姉妹の活躍により、場の空気は元の和やかさに戻りつつあった。食べかけだった菓子類は再び減り始め、もういくつ目か分からない菓子袋を両手で引っ張る高坂さんが言う。


「銀之助ー。そろそろ終わったー?」

『終わってはいませんが、終わりが近いと予想されます』

「おっし。そろそろかなー」


片手でポテチを食べつつ、もう片手でスマホを操作している。器用だな。


『トワ様。甘い物としょっぱい物を交互に食べるから止まらないのですよ。そろそろ摂生しては』

「今日は食べて良い日なのー」

『その発言は今月五回目です』


下に置かれた高坂さんのスマホでは、箱型スピーカーの上に座った猫が半眼で睨んでいた。


「何かの処理中ですか」

「いんやー。博士に予備のを仕込んどいたから、大人の密談でも聞こうと思ったんだけどさ。さっきから変な雑音ばっかりで声が聞こえないんだわ。何やってるんだか知らないけど、機械の作業音ならそろそろ終わるかなって。クリアになったら教えてって銀之助に頼んどいた感じ」


盛大に咳きこむ声が聞こえたと思ったら、しばらく声を聞いていない庄野さんだった。そういえばずっと影が薄い。悪いけど存在を忘れてたよ!


「ごほっ……若者の時間を邪魔をしちゃいけないと思って、黙って聞いてたんだけど……それって、と、盗聴……いつの間に……」

「キャラメルの箱に入れましたー」


ひとかけらの罪悪感もなさそうな声。聞いてるだけで、ちょっと腹立つ感じのやつだ。


「博士だって機能的には知ってるハズですよ。前回のメンテナンスで『聴覚関連の実験に協力』って取引したの、樹生は覚えてる?」

「ああ、画像流出事件の」

「アレって実は今までに何回もやってるんだけど、『別室の音が聞き取れるか』とか、『別の建物でも聞き取れるか』とか、『遮蔽物しゃへいぶつの種類が変わると聞き取れるか』とかの実験内容でさ。明らかに情報収集を目的としてんじゃん?」


伯父さん、本気で危ないこと考えてない? ヒーローどころかヴィランにならないよね⁉


「スパイの養成課程でも受けさせられてるんですか」

「本当の目的は俺も知らないよー。お互いに『人間の聴力と人工内耳の性能実験』としてやってる」

「俺は怪しい実験の話自体、聞きたくなかったんですけど」

「そこは一緒に背負ってよ、甥っ子」


嫌だし!


「そんなワケで博士も、その気になれば俺がスパイできるって知ってるわけ。しかも箱を渡したときにカタカタ音がしたはずなのに、普通に受け取ってたし。これは『聞け』ってコトだと思うね」

「連絡不備の説教を?」

「この流れだとあの二人、説教のあとに機密事項の話でもすんじゃねー? こんなアイテム与えて俺たちに何をさせたいのか、とかさ。俺は聞くけど、みんなはどうするよ。特に樹生」


いつもより生気のある目がバチっと視線を合わせてくる。


「……今日は皆して、俺に選べって言うんですね」

「こんなヤバい話なら聞きたくなかったとか、後で言われても記憶消せるわけじゃないじゃん? 知りたくないなら知らない方が良いよ。それも良い判断だと思うし」


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