第17話 文化祭前夜の一波乱!
静かな生徒会室の空気は、祭りの喧騒から離れた一瞬の安堵に満ちていた。文化祭の準備で慌ただしかった一日が終わり、風間くんの表情も少しだけ和らいでいるように見えた。私は深く息をつき、彼に向き直った。
「わかった、風間くん。これからは何かあったらすぐに私に話して。あなたたちの秘密も、文化祭を成功させるために必要なことなら、私もちゃんと理解するよ。でも、絶対に隠し事はしないで。信頼が何より大事だから」
彼は小さくうなずき、口元にほのかな笑みを浮かべた。「はい、会長。約束します」その時、生徒会室のドアが静かにノックされ、クラスの実行委員の一人が顔を覗かせた。「すみません、会長。ステージの準備、ほとんど終わりました。あと少しで全部整います!」私は頷き、笑顔で答えた。「ありがとう。みんなに伝えておいてね。最後まで気を抜かず、協力して進めよう。」実行委員は軽く頭を下げ、廊下の向こうへと戻っていった。私は一人、窓の外を見つめた。校庭では、文化祭の準備が進む中、色とりどりのテントや手作りの看板が並び、夜の闇に映える提灯が幻想的な雰囲気を醸し出していた。
しかし、私の心には、どこか不穏な予感が渦巻いていた。文化祭の裏に潜む秘密は、ただのクラス間の競争やいたずらではないかもしれない。もっと深い問題――もしくは危険が絡んでいる可能性も否定できなかった。このまま静観していて良いのか、それとも積極的に動き出すべきか。私は決意を固め、静かに目を閉じた。「文化祭の成功と、みんなの安全のために、何が必要か…」その思いを胸に、私は次の一手を考え始めた。生徒会室を出ると、校舎の廊下は文化祭前夜の活気に満ちていた。教室から聞こえる笑い声、装飾を作るハサミの音、焼きそばの試作用の鉄板の香り――すべてが、高校生らしいエネルギーに溢れていた。しかし、その賑わいの裏に、何か不穏な気配が漂っているような気がしてならなかった。私は校庭を歩きながら、実行委員やクラスのリーダーたちの動きを注意深く観察した。特に、ステージイベントや物販の管理を任されている生徒たちに目を光らせた。文化祭は生徒主体のイベントだが、外部からの出店や臨時のボランティアも関わっている。彼らの動きに何か不審な点はないか、慎重に見極める必要があった。その時、校庭の端にある物置小屋の近くで、怪しい人影が動くのを見つけた。普段はあまり見かけない、どこか緊張した様子の男子生徒が、何かをこっそり運んでいるようだった。私は距離を保ちながら、そっとその動きを追った。彼は文化祭の装飾品や備品が入った段ボール箱の陰に隠れるようにして、何かを確認しているようだった。私はスマートフォンを手に取り、録音機能をオンにした。どんな小さな手がかりも見逃すわけにはいかない。私は静かに近づき、声を潜めて呼びかけた。「ねえ、そこで何してるの?」男子生徒がビクッと肩を震わせ、振り返った。彼は3年生のクラスに所属する生徒だったが、あまり目立たない存在で、名前もすぐに思い出せなかった。暗がりの中で、彼の手に持っていたのは、文化祭の装飾品ではなく、明らかに場違いな小さな包みだった。「会長…! いや、別に…ただ、ちょっと確認してただけっす。」彼の声は震え、目が泳いでいた。「確認? こんな時間に、こんな場所で?」私は冷静に詰め寄った。「その包み、何? 見せて。」彼は一瞬ためらったが、私の視線に耐えきれなかったのか、しぶしぶ包みを差し出した。中には、電子機器のようなものと、紙切れに書かれた暗号のような文字列があった。私は眉をひそめ、すぐに風間くんに連絡を取った。「風間くん、物置小屋の裏、急いで来て。不審なものを見つけた。」数分後、風間くんと他の実行委員が駆けつけ、男子生徒を取り囲んだ。彼は慌てて弁解を始めたが、話は支離滅裂だった。私はその場で彼を落ち着かせ、包みの中身を詳しく調べた。電子機器は、どうやら文化祭の音響システムを妨害するための装置のようだった。紙切れには、外部の人間と連絡を取るための暗号が書かれているようだった。「これは…誰に指示されたの? 文化祭を邪魔しようとしてるの?」私は鋭く尋ねた。彼は唇を噛み、しばらく黙っていたが、ついに観念したように口を開いた。「…クラスの出し物を目立たせたくて…。他のクラスのステージを少し邪魔しようとしただけなんです。誰かに頼まれたわけじゃない、俺が勝手に…。」彼の言葉はどこか不自然だった。単なるクラス間の競争心でこんな手の込んだ妨害をするとは思えなかった。私は彼を生徒会室に連れ戻し、詳しく話を聞くことにした。風間くんと他の信頼できるメンバーに、校庭や物置小屋の周辺をさらに調べるよう指示を出した。生徒会室での事情聴取の結果、彼は外部の人間――おそらくオンラインで知り合った何者か――からこの装置を受け取り、報酬と引き換えに文化祭のステージイベントを妨害しようとしていたことがわかった。彼自身も、どこまで本気だったのかわからないまま、軽い気持ちで引き受けたのだと主張した。私はすぐに顧問の先生と警察に連絡を取り、状況を報告した。装置と暗号の紙は証拠として提出され、男子生徒は厳重注意の上、保護者同伴で事情を説明することになった。幸い、文化祭本番前に妨害工作を未然に防ぐことができた。翌日、文化祭は予定通り開催された。校庭には笑顔と活気が溢れ、ステージではバンドやダンスの発表が盛り上がり、教室では手作りのお化け屋敷やカフェが賑わっていた。私は実行委員として最後の確認をしながら、ほっと胸を撫で下ろした。しかし、心のどこかでは、まだ完全には安心できない感覚が残っていた。今回の事件は、単なる生徒の軽率な行動だったかもしれない。でも、外部の人間が関わっていたという事実は、文化祭の裏にまだ見えない影があることを示唆していた。生徒会室に戻り、窓の外の花火を見つめながら、私は静かに呟いた。「文化祭を守るため、どんな小さな異変も見逃さない。それが私の役目。」私は決意を新たにした。次の文化祭、そしてこの学校の安全のために、これからも目を光らせ続ける。どんな秘密も、真実を明らかにする――それが、私の使命だった。
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