第3話 拉致前、2人の恋

三浦奈緒、彼女は佐藤浩二を陥れたら張本人だ。

奈緒の両親は厳しく色々なことに制限をかける。

だけど奈緒が欲しいと言ったものは買ってくれるし毎年旅行にも連れて行ってくれる。何一つ不自由なく育ててくれた良き両親だった。


ただ、奈緒の進路にはとても強い思いがあり、必ず大学に進学させ一流企業へ就職させる夢があったのだ。そのため恋愛も禁止されていた。

だから久保卓也との交際をバレるわけにはいかなかったし、ましてや妊娠したことが発覚したら家を追い出されるかも知れない。

...だからああするしかなかったのだ。


友達のほとんどは奈緒のことを信じてはくれたが、

奈緒と距離を置くようになった。

それは、先生に無理やり妊娠させられたとしても

先生とそういう関係にあったこと、中絶したこと。

それらの理由から敬遠されるようになったのだ。


久保卓也とも2人は距離を置き始めていた。

すぐに別れると、周りからはあの2人が共犯で佐藤先生を嵌めたと思われてしまうから、周りには付き合っていることにしている。


木村愛は奈緒とは元々接点がなかったが、あの事件以降いつも明るくみんなの中心にいた奈緒が暗くなり、1人で過ごすようになったことに心配し、優しく声をかけた。

奈緒が暗くなったのは先生に妊娠させられたから

そう聞かされた愛は先生がそんなことするはずはないと思ったが、奈緒の変わりようを見て奈緒の話を信じることにした。


愛はいじめられていた経験から奈緒のことをほっておくことはできなかったのだ。


奈緒は自分のことを気にかけてくれて信じると言ってくれた愛に心を開いた。

2人はそこから意気投合し今では2人で遊ぶほど友好な関係を築けている。


愛のおかげで明るさを取り戻した奈緒は、再びクラスの人気ものに返り咲いた。それは奈緒が明るくなったのもそうだが、皆があの事件への興味を失ってきているからだ。

奈緒は元々仲の良かった友達に自分が愛に支えてもらった話をした。その話を聞いた奈緒の友達は愛とも友達になりたいといい、今では愛もクラスの人気ものになった。


奈緒は容姿端麗で艶のある長い髪が特徴だ。モデル顔負けのスタイルをしており、スカウトからも声をかけられた経験もある。

奈緒は胸が少し大きく、奈緒自身はそれをコンプレックスに感じており、体育の時に感じる男子生徒からの視線にいつも嫌気をさしていた。

だからこそ先生にそういうことをされてしまうのも無理もないってのがクラスの男子生徒の限界だ。


愛はいじめられていた時は、典型的な地味女子だった。趣味はアニメや漫画を見ることで、オシャレに興味がなく大きく丸いメガネをかけていた。

そんな見た目もあったいじめられていた。


奈緒と仲がよくなってからは奈緒が愛にオシャレについてたくさんの知識を提供した。


「愛ってさいつまで地味系でいるの?」

奈緒が愛に聞く。

「地味系?」

「うん。愛ってさ典型的なオタク女子みたいな髪型

 と服装でしょ。もっとオシャレしないと」

「だってオシャレわからないもん。勉強したしてないし」

「何それ??でもさ愛ってよく見ると整った顔してるよね。」

「そんなことないよ」

「最近クラスの男子から聞いたの」

「聞いたって何を?」

「意外と可愛いと思うクラスの女子ランキング」

「ランキング??」

「男子ってそういう話好きじゃん」「それで一位が愛だったの」

奈緒の話では愛はクラスの男子からは原石美女と思われてるらしい。

「私が可愛いって思われるなんてことないよ。」

「そんなことない!愛は誰よりも優しく可愛い子なんだから。愛が私を救ってくれたみたいに今度は私が愛に女の子としての自信を持たせてあげる。」


それから奈緒は休日の日愛を連れ出し、美容室、ショッピング、眼科へと連れていった。

全てを終えて、愛の実家の部屋へ2人で向かった。

愛の両親は2人とも仕事で帰りが遅い。

奈緒が家に来ることは事前に両親に伝えてある。


愛の部屋に入り鏡に写った自分の姿を見て愛は奈緒に言った。

「ねぇー奈緒、恥ずかしいよ」

「とっても可愛いじゃん!」

奈緒の目の前にいたのは、奈緒の手によって生まれ変わった愛だった。


ダサいメガネは外され、コンタクトレンズに変えた。そのことによって隠れていた大きくぱったり二重の目が強調され、さらに髪型も自然なセミロングに変わり、服装も今時の女の子の様な服に変わった。愛は奈緒とは違い小柄で身長は148cmしかない。そのためが小学生にも見える時もある。


「やっぱり可愛い!!アイドルみたいだよ愛!」

「そんなことないって」

恥ずかしがる愛を無視して写真を撮る奈緒。

「ねぇこの写真SNSにあげてもいい??」

「嫌だ、恥ずかしい」

「ごめんもうあげちゃった!」

「なんでーー。消してよー。」

「だって愛が可愛すぎるもん。」

自分に自信のない愛が奈緒の手によってオシャレになりその姿をSNSに投稿されてしまった。

愛は恥ずかしさて涙目になっていた。

その様子を見て、少しやり過ぎたと思ったら奈緒は

愛に謝罪の言葉を言う。

「愛...ごめんね。」

「ううん。いいの。奈緒にたくさんしてもらって、

こんなこと今まで一度もしたことがないから」

「愛??」

愛はどうやら嬉しくて涙を流していたらしい。

「奈緒ありがとうね!友達になってくれて」

奈緒はその言葉を聞いてとても嬉しかった。

優しく、私の存在を肯定してくれる。ダメなことはダメときちんと否定もしてくれる。

そして何より私の悩みを自分のことのように考えてくれる。そんな愛に出会えたことに。

「愛...」

「奈緒??どうしたの?」

「今まで一度もしたことなかったんだよね?」

「うん。オシャレとか女の子っぽい遊びとか」

「今からする?」

「何を??」

奈緒の質問に愛は戸惑いを見せる

「今まで一度もしたことないことを」

「私、本当は卓也とは別れたの。だから今は私には愛しかいないの。」

愛にはその質問の意味が分からなかったが、

次の瞬間にはその意味が分かった。

「愛...好きだよ。」

そう言って奈緒の唇が愛の唇を塞いだ。

それを愛は拒むことはなかった。


...それからどれくらいの時間が経ったか分からない。せっかく選んだくれたオシャレな服は脱ぎ捨てられ、綺麗にしてくれた髪の毛もボサボサになっていた。

今まで味わったことのない幸福感と快楽が愛の全身に駆け巡っていた。奈緒は疲れたのか隣で気持ちよさそうに眠っていた。


ふと携帯を開くと親からメッセージが届いていた。

「今日は忙しくて帰れそうにない。ピザでも頼んでおいて。奈緒いるなら奈緒ちゃんと一緒に食べてもいいよ。」


今日は親は帰ってこないのか。

そう思った愛は、寝ている奈緒の顔を見て思った。

今度は私が奈緒にいたずらする。


愛は寝ている奈緒の唇を塞いだ....


次の日、ふたりは手を繋ぎながら学校に通った。

昨日の夜は2人にとってかけがえのない時間だった。

「ねぇ愛??」

「どうしたの奈緒?」

「昨日投稿した愛の写真。私の投稿の中で1番いいねの数が多いんだけど」

「ほんと!?」

「うん。あんたやっぱり人気者だね」

「奈緒のおかげだよ」

「でもいいねしてるほとんどが男だ。」

「男の子?」

「うん。愛みたいにおとなしくて小柄な女の子を男は好むからねーー。でも愛は誰にも渡さないよ!」

「うん。奈緒ももちろん誰にも渡さない」


だって大好きだもん。2人は声には出さなかったが心の中ではそう話した。


クラスの男子からの視線が気になったが、愛はとっても楽しく学校生活を過ごすことができた。


これからもっともっと楽しくなるんだろうな。

体育祭、文化祭、修学旅行。いじめられていた時は全てが嫌で逃げ出したい行事だったが。今は奈緒がいる。それだけで楽しみで仕方がなかった。

いじめを克服した時はいじめられなくなっただけで、親友と呼べる存在はいなかった。

けど今は違う、、、今の私には親友..いや恋人がいるから。


けど少し心残りがある。いつか本当のことを聞かないといけない、奈緒と佐藤先生に何があったのか。


夜の街は、静かに冷え込んでいた。

学校帰りの三浦奈緒と木村愛は、寄り道をしてから家路についていた。


「はぁー、今日も寒いね。」

愛が息を吐きながら、肩をすぼめた。


「ほんと。コート着てても足元から冷えてくる。」

奈緒も苦笑しながら、自分の腕をさすった。


二人は仲が良かった。

何より、奈緒にとって愛は、学校生活を支えてくれた大切な友達だった。


「奈緒さ、明日の進路面談どうするの?」

「うーん、まだ決めかねてる。親は国立行けってうるさいし。」

「わかるわー。うちも似たようなもん。」


たわいない話に笑いながら、二人は暗い路地へと差しかかった。


ふと、愛が声を落とした。


「ねぇ……本当に、あのこと……よかったの? 先生のこと。」


奈緒は一瞬足を止めた。

夜風が吹き抜け、二人の制服の裾を揺らす。


「……何のこと?」

奈緒は視線を逸らしながら言った。


愛は奈緒をじっと見つめた。

その目には、優しさと、どこか切ない迷いがあった。


「奈緒はさ、ウソついてないよね……?」


その問いかけに、奈緒は小さく肩を震わせた。

すぐに、明るい声でごまかす。


「何言ってんの。そんなわけないじゃん。」

「そっか……うん、信じてる。」


愛はにっこりと微笑んだ。


それが、最後の平和な会話だった。


次の瞬間――背後から、重い足音が近づいた。

振り向く暇もなく、二人の体に強烈な衝撃が走る。


「……ッ!!?」


スタンガンの閃光が、暗闇を一瞬だけ照らした。


奈緒と愛は、短い悲鳴をあげながら崩れ落ちた。


冷たいアスファルトの感触が遠のいていく。

意識が闇に沈み込む中、愛の小さな囁きだけが、奈緒の耳に届いていた。


「……奈緒……だいじょうぶ、だよ……」


だが、二人に待ち受けている運命は、もはや誰にも変えられなかった。

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