第2話 復讐の計画

佐藤浩二は、自分の中に芽生えた”冷たい感情”を、自覚していた。


かつての彼なら、そんなものを否定していただろう。

怒りに呑まれた人間を、憐れみ、哀れな眼差しで見つめていたはずだ。


だが、今の彼は違った。


怒りは、生きるために必要な燃料だった。

復讐は、彼に残された唯一の使命だった。


そして何より――三浦奈緒と久保卓也に、「報い」を与えなければならなかった。


浩二は静かに計画を練った。


ターゲットは二人。

三浦奈緒と、そして……木村愛。


「愛、お前も、だ。」


心のどこかで、浩二は最後まで迷っていた。

愛だけは救いたい、と。


だが、復讐とは不完全であってはならなかった。


愛は勘のいい子だ。きっと俺がやったと思うだろう。見逃せば、彼女は警察に駆け込むだろう。

彼女は「いい子」だからこそ、正しい行動を取る。

善人の愛を奈緒と共に苦しめることで、奈緒への

苦痛をより強く与えることができる。

「先生、本当にありがとうございます。」愛の保護者が涙を流しながらお礼の言葉を述べた。

それは愛がいじめられたトラウマを乗り越えて学校に通うことができたからだ。

「先生のおかげで娘は学校に通うことができました。友達もできて毎日学校に行くのが楽しいと言っています。」愛の保護者が言う。

「娘さんは誰よりも優しく真面目な子です。

相手が悪だと分かっていても手を差し伸べる、そういう子なんですよ。少し私に似ているところがあって、とても気にかけていました。

そんな優しい子が苦しまなければならない、そんな学校を作ってはいけないんです。

だから先生もほっとしています。」

浩二は愛の保護者に自分の気持ちを伝えた。

愛の考え方や生き方が自分に似ていて、ほっておくことはできなかった。

浩二はある日のことを思い出した。だけど...

「愛...すまない。」

復讐のためには必要な犠牲だ。

全てを終わらせるしかない。


全てを、完全に。


計画は、綿密に立てられた。


浩二は、かつての教師としての知識を最大限に生かした。

生徒たちの生活パターン、警察の動き、監視カメラの位置、地域の死角。


奈緒と愛が、放課後に一緒に帰る道。

人気のない廃工場の裏路地。

そして、使われなくなった資材置き場。


一つひとつ、慎重に準備を整えていった。


拉致に使用する車両も用意した。

盗難車。ナンバープレートも偽装済み。

道中の防犯カメラには、一切自分の姿が映らないよう細心の注意を払った。


廃工場には、すでに人気はなかった。

周囲は鬱蒼とした木々に囲まれ、夜になれば街灯の光すら届かない。


「ここが、地獄の入り口だ。」


浩二は、ひとり呟いた。


自分の心が、確かに冷たく凍りついていくのを感じた。

だが、それは恐怖ではなかった。


むしろ、ある種の安堵だった。


「もう、何も裏切られない。俺が、全てを支配する。」


計画は、完璧だった。


彼らを拉致し、奈緒には「本当の苦しみ」を味わわせる。

愛には、「哀しみ」と「絶望」を見せた上で、その命を奪う。


そして、証拠を完全に消し去り、自分は再び何食わぬ顔で”普通”の日常へと戻るのだ。


そのための準備は、もう全て整っている。


佐藤浩二は、静かに夜を待った。


復讐の幕が、まもなく上がろうとしていた。

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