第二十一節 救世主はエゴイスト

 静けさのなか、左手が差し出される。

「無粋な横槍だったかしら」

 小夜さよの手を取って立ち上がった。

「ううん、そんなこと、ない──多分」

 まだ頭がぼんやりしている。

 ──男根おとこ様を寄生させられるのはよくないのに、犯してもらいたかったんだよね。


 小夜の左腕に両腕をまわして、

「どうしてみんな倒れちゃったの?」

「彼女たちは迦陵かりょう様の組織に寄生されているの。半分迦陵様になったようなものだから、これが効いてしまうのよ」

 ブザーを見せられた。

「私、目が覚めたらここにいて。真理亜まりあ様たちはもう正気じゃなくて。小夜は今までどこにいたの」

 唇が苦く笑み、

「私は特別扱いされてしまったわ。白銀しろがね先生の許に連れていかれて、真相を教えられていたの。あきらと一緒にね」

「そういえば、玲もここにはいなかった」

「彼女も特別扱い。迦陵様にここまで連れてこられたけれど、優愛ゆあちゃんたちが抜け目なく救出していったようね」

「そうだよ小夜! 優愛ちゃんや松浦まつうら先生があんなことやってたの? それだけじゃない。先生たちみんなが──」


「そうなるわ。生徒の拉致・殺害・解体は、この学院の教職員全員のたくらみよ」


「そんな──ねえ、私たちどうなるの」

「寄生組織が分泌ぶんぴつする化学物質は記憶を消し去るそうだから、真理亜様たちは当面は無事ね。私と玲は白銀先生の研究に必要とされているから、殺されることはない。あやさんは切断死体を目撃していないわ。さて、今一番危険な立場に置かれているのは?」

「え、えっと、私?」

「そのとおり。よくできました」

「あ、あのぅ、それって、理事長様は私の記憶も消したかったってことじゃ」

「それじゃ私が不服よ。白銀先生に勝たせっぱなしは業腹ごうはらだわ」

「そんな理由で」

 ──助けてもらったのはありがたいけど、どうにかできるものなの?

 とうの実家は大病院を経営している一族だから、施設出身の子たちより立場は強いはず。でも、弁護士一家に生まれた真理亜や、著名な芸術家を両親に持つ永遠とわも巻き込まれているのだから──。

 ──権威は通用しないかもしれないんだ。


「ひょっとして独断で助けに来たの?」

 小夜は不敵に笑み、

「もちろん。停止装置これは松浦先生からくすねてきたの」

「もう、無茶ばかりして! 小夜だって強い立場じゃないんでしょ」

「まあね。でも、放置していたら貴女あなた男根おとこ様に寄生されてしまうじゃない。ほら、それを防ぐためにもパンツを脱ぎなさい」

「あ、ああ、そうか」

 股間にこびりついた白濁液はパンツにも浸透していた。

「これって体に入るとヤバいんだよね」

「多分ね」

 仰向けに倒れている真理亜の陰部を小夜はねっとり見つめて、


「子供はできないでしょうけれど、いやらしいものが生えてきちゃうかも」


「や、やだ! やめてよぉ、もぉう」

 小夜の左腕を離すと、両親指を掛けてパンツを引き下ろす。交互に足を抜いて目元に掲げた白さは、穿く気になれないほど濡れそぼっていた。

 プリーツミニスカートの左ポケットにブザーをしまった小夜は、ハンカチを取り出して灯の足元にしゃがみ込む。

いてあげるから、脚を開きなさい」

「え、あ、待って。きゃあ!」

 柔らかさが陰毛を撫でて、股間に付着した液体がぬぐわれていく。

「ふぅん、祝宴のときも思ったけれど、貴女のここって、けっこう毛深いのね」

「もう! 気にしてることをズケズケとぉ」

「はい、前は拭いたから、脚を開く!」

 内腿うちももに触れた両手に両脚が押し広げられた。

「ああ」

 涼しさが繊細なところに触れる。

 外科医のような手つきが陰唇、膣口ちつこう、肛門をぬぐっていった。

「はい、おしまい」

 立ち上がった小夜は濡れたハンカチを地面に捨てる。

「え、もう終わり?」

「ご期待には事件が解決したあとこたえてあげる。そのパンツは捨ててしまうことね」

「う、うん」

 ──ああ、なに言っちゃったんだろ。これじゃ、えっちなことをせがんでるみたい。


 パンツを地面に落とした。

 それ以外の衣服は多少土にまみれただけ。はたいて身に着けて一応は生徒の格好を取り戻したけれど、

「ああぅ、スースーする」

 脚を閉じてプリーツミニスカートの前後を押さえる。

 夏服のスカート丈は標準で短い。ウエストで折ったり裾上げしたりしなくても太腿が見えていたから、おまたのあたりが際どかった。

「恥じらいがあるのは良いことだけれど、このあたりには女しかいないんだから、警戒しなくてもいいんじゃない?」

「それはそうだけど──って! いやいやいや、真理亜様ガチレズだし、小夜だってそっちのあるでしょ!」

「さて、どうかしら」


 小夜は左肩に掛かった髪を払って、

「準備もできたことだし、行きましょうか」

「行くってどこへ? みんなを放っておくの?」

「昏倒は三十分ほど続くようなの。ふたりで四人を寮まで運ぶのは無理ね。学院の管理下に置かれるのは一緒だから、今は無視します」

「それって、あんまりよくないんじゃ」

「灯、私の最大の関心は貴女の安全の確保。貴女もそうであってほしいわ」

「う、うん、それはそうだけどさ」

 小夜は樹木から吊り下がる迦陵様たちを仰いで、

「製薬会社アナーヒターの分室ぶんしつが近くにあるの。今、白銀先生も来ているわ」

「じゃあ、理事長様に会いに?」

 凛とした美貌に見つめられた。


「ええ、談判してケリをつけましょう。ついでに膣洗浄と特効薬の接種もしてもらうこと」

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