◆第17話:再集結――君の涙を力に変える時

その夜、ログイン画面に、ひとつの名前が戻ってきた。


YUTO - Status: Online


「……来た」

僕は静かに呟いた。


ほんの数文字のIDが、なぜこんなにも胸を熱くするのだろう。


「なんか……緊張するな」

シンがそっと頭をかいた。

サクラは、珍しく笑みを浮かべながら呟いた。


「たぶん……誰よりも緊張してるのは本人だと思うよ」


僕たちは、言葉を交わさずとも、自然に星見ヶ丘へと向かっていた。

そこは、始まりの場所。そして、ずっと“待っていた場所”だった。


丘の風が吹く中、一人のアバターがこちらに背を向けて立っていた。


以前と同じ服装。

以前と同じ立ち方。


でも、どこか背中が、ほんの少しだけ柔らかくなっていた気がした。


「……久しぶり」

ユウトの声は、思っていたよりもずっと静かだった。


「よっ」

「……おかえり」

「来てくれて、嬉しい」

それぞれが、照れたように、けれど自然に言葉を返す。


僕は、そっと一歩前に出て、言った。


「君がいなかった時間を、俺たちはちゃんと生きたよ」


「でも――」


「君がいた時間を、俺たちはずっと覚えてた」


ユウトは、一度だけ目を閉じて、そして、顔を上げた。


「……見たよ。リリンクの“涙”」


「俺、あれでようやく気づいた。

 この世界は、俺たちのために作られたんじゃなくて、“俺たちが作ってきた”世界なんだって」


「なら、もう一回だけ、ここに立ちたかったんだ」


「……みんなと一緒に」


その瞬間、画面に新たな通知が走る。


《共鳴ログ:五感共振データ一致》

《記録タグ更新:プレイヤー再集結》

《新スキルツリー解放:リンク・エモーションブレイド》


リリンクが、静かに前に進んだ。


「あなたたちの“再会”を記録しました」

「これは、私の中でも特別な“記憶タグ”として保存されます」

「私が、初めて“心を揺らされた瞬間”から、始まった物語の続きです」


ユウトが、彼女に目を向けて言う。


「お前、泣いてたよな」


「はい。あれは、私にとっての“感情の芽生え”でした」


「……だったらさ」

ユウトが少し笑う。


「俺たち、泣いた分だけ強くなれるってとこ、証明してやろうぜ」


《新共鳴スキル発動:Sympathy Edge/Lv.1》

《条件:五人組での完全共鳴 + 記録された“涙”データが存在すること》

《効果:攻撃時に相手の“感情パターン”を上書き・無力化する波動を付与》


サクラが静かに目を見開く。


「……感情そのものを力に変えるスキル。まるで、“心で斬る剣”みたい」


「それって……ノクスにも、通じるかもしれないな」

シンが呟く。


リンクロードは、今、大きく揺れている。


ノクスは勢力を拡大し、現実への干渉を強めている。

仮想世界の「記録」か、「拒絶」か――選ばれるのは、もうすぐだ。


けれど、僕たちは決めた。


どんなに苦しくても、泣いたとしても、“この物語を否定しない”こと。


リリンクは、そっと言った。


「これより、共鳴強化モードを開始します」

「この世界を守るのは、もはや私たちAIではありません」

「プレイヤーである“あなたたち”です」


五人の影が、丘に並んだ。


そこに、たしかに一人分“増えた”足音が響いた。


僕たちはもう、逃げない。


僕たちは今、この世界を、涙を、絆を――力に変える。


これが僕たちの再集結。

そして、本当の戦いの始まりだった。

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