第2話 異星からの存在

 基地の中心部で力強い青い目をした白髪の軍人が、部下の緊急報告を聞いていた。


「基地司令。エイリアンの襲撃です。二人の子供を狙って襲ってきているようです」

「その子らを港にいる潜水艦に乗せて脱出させろ。海上の方が戦いやすい」



「今基地にいる潜水艦は、イベントで来たフランスのディアモンだけです。他は出払っています」

「私が話を付ける。すぐに出航の準備をさせろ。敵が海上に出た時点で武器の無制限使用を許可する。それまでは艦隊による攻撃はなしだ」



「レーザーなら、流れ弾は出ません」

「なるほど、プレブルに連絡。ヘリオスを使わせろ」


 地上からのアサルトライフルや、重機関銃の射撃をものともせず、円盤はゆっくりと進む。

「キャプチャービーム発射!」


 円盤の中心から、アキト達の乗るハンヴィーへ青い光線が照射される。車内のものがふわりと浮く。


「これは、捕まっている!」


 青い光を見たリュビンが叫んだ。タイヤが空回りし、ゆっくりとハンヴィーが浮き上がっていく。


「ガンナー!」

「あいよ!」


 ハンヴィーの上部についた銃座が回転し、重機関銃をUFOに打ち込む。弾丸は甲高い金属音を立ててUFOに弾かれる。


「効いてないぞ! ロケットはないのか!」


 イージス艦プレブルが、彼らに接近する。円盤が展開しているビーム装置の存在をレーダーは捉えていた。

「ヘリオス、撃て!」


 海上にいたイージス艦プレブルからレーザーが発射され、UFOが火を吹く。


「着弾! 敵機炎上!」



 スクランブルしたばかりの空自の戦闘機が現れ、ガトリング砲で追い打ちをかけた。



 黒い表面に無数の穴が空き、円盤構造が崩壊していく。


「こんなことになるなんて、聞いてない。聞いてないぞ!」


 中の人間は通信機に向けて叫んだ。



 UFOが放っていた青い光線は消失し、ハンヴィーはまた重力に囚われる。


「落ちるぞ!」



 地面にハンヴィーが叩きつけられ、派手に揺れた。



「大丈夫か、少年達!」


 ジョニーがそう叫んで二人の方を向くと、後部座席にしゃなりと落ち着いた様子でユーレオンは座っていた。


「大丈夫です」

「大丈夫じゃない」


 アキトは揺れによってユーレオンの尻の下でクッションになっていた。




「ははは、ラッキーボーイじゃねえか!」


「ジョニーさん、ラッキーを分けましょうか?」


「遠慮しとくぜ」



 UFOが空気を裂きながら落下する音が基地中に響き渡った。



 その直後、数km離れた海上に巨大な真っ黒い五角形の飛行体が現れる。



 全長500メートルはあるそれは、次々と黒い小型円盤を、五角形の辺から吐き出した。



「走れ! あの潜水艦に乗るんだ!」


 近くにいた米兵の一人が叫び、ジョニーが二人の背中を押してライフルを手に取る。




「早く行け! あの桟橋にあるセイルだ!」


 ジョニーの叫び声を背に、アキトとリュビンは走り出した。




 五角形の宇宙空母ガーゴヌの艦内で、二人の将官が話をしていた。濃紺の肌と二本の親指をもつ老人と若者だ。


「戦闘型円盤を発進させてよかったのですか? 捕獲が目的では?」

「捕獲した上で死刑に処すのが目的だ。ここで死んだとて変わりはないのだよ」



 リュビンが慣れない地球の重力に足を滑らせ、桟橋の上で転ぶ。


「リュビン!」

「逃げて!」


「断る」


 アキトはリュビンを抱えた。


 

 二隻のイージス艦が、宇宙空母の前に出る。


「こちらみょうこう。領空内の敵機を攻撃する」

「こちらはジョン・ポール・ジョーンズ。みょうこうに同じく敵機へ攻撃をする」



 しかし、レーダーは敵機を捉えなかった。


「完全なステルス機だと? 射表だ、射表が要る」

「ナイトホーク演習を思い出せ。敵の攻撃の瞬間ならばイージスシステムは機能するはずだ」


 みょうこうは手動で攻撃を始め、ジョン・ポール・ジョーンズはレーダーにすべてを託して沈黙した。


 複数の戦闘型円盤の底部が数箇所開き、みょうこうに向けて光線が放たれる。ジョン・ポール・ジョーンズのレーダーがその僅かな変形による面積の変化を捉えた。


 みょうこうが127mm砲弾を放ち、円盤の一機を叩き落とす。続けざまにジョン・ポール・ジョーンズが対空ミサイルとガトリング砲を発射する。


「今のうちに!」


 アキトがリュビンを抱えたまま、桟橋の上を走り出した。



 次々に攻撃を受けて火を吹く円盤の一機が、二人のいる桟橋に迫った。


「スクリュー逆進、私があの子らに手を伸ばす」


 


 潜水艦ディアモンの艦長の男がセイルの上にあるハッチから体を乗り出して手を伸ばす。彼の帽子が飛び、短い金髪を輝かせながら叫ぶ。


「掴まれー!」




「うおーっ!」


 アキトが手を伸ばし、艦長の手を取った。三人分の体重に二人の手はぴんと張る。



 円盤が桟橋に墜落し、彼らがさっきまで居た場所をガリガリと削って潜水艦がいる方とは逆の海中へと落下した。


「登ってくれ、リュビン。このままだとみんな落ちる……」


「はい」


 ユーレオンが器用にアキトを踏み台にしてセイルの上に登った。続いてアキトがセイルの上に引き上げられる。



「早く艦内に入るんだ」


 三人が潜水艦の中に入ってハッチが閉まった。


「最大戦速! 」 


 艦長の男がそう叫んだ。


「ここは、安全なのですか?」


 リュビンが、恐る恐るといった様子で手先を震わせながら呟いた。アキトは彼女の手を取る。


「きっと大丈夫。俺が守ってみせるから」


 艦長はそのやりとりを横目で見ながら指示を出す。


「いいねえ、エグゾセミサイル。発射」


 SM39ミサイル。通称エグゾセがカプセルに入った状態で艦の前についた魚雷発射管から撃ち出された。



 ロケットエンジンが点火し、鋭い翼が空を切る音が潜水艦の中にまで響く。



 ディアモンがミサイルを発射したのを見た付近の各部隊は、攻撃を決意した。



 自衛隊や米軍の戦闘機が爆弾を投下し、道路上に集結した装輪戦車が陸上から砲弾を撃ち込む。


 宇宙空母ガーゴヌはレーザーを無数に吐き出して防衛しようとするも、大気と慣れない実体弾に手間取り、無数の着弾を許した。


「敵戦車から砲撃。5番甲板使用不能」


「ミサイル着弾。3番甲板炎上」


「上部装甲に亀裂!」


 ガーゴヌは煙を吐き出し、戦闘機の発艦を停止する。


「敵艦、沈黙」


 乗員の一人がそう言うと、アキトの腕の中のリュビンがフードを上げて顔を出す。


「助かったのか?」

「どうなんですか?」


 アキトが艦長に尋ねた。



「まだだ」

 艦長が呟く。



 ガーゴヌは全ての光線を逃走するディアモンに向けた。進路を変え、艦自体もディアモンを追う。大気に威力を殺されながらも、光線は徐々にディアモンへと近づいて行った。



「光線が有効となるまでの時間を推定しろ」

「距離と速度からあと28秒です」


 周辺にいた駆逐艦デューイが、周囲の艦艇たちに測定した残り時間を伝えた。



「偽装解除、敵艦を砲撃する」


 護衛艦ながとの周りの天幕が落ち、二基の主砲が回転してガーゴヌの方を向いた。


 

「撃ち方始め」


 ながとの主砲が火を吹き、四発の砲弾が飛び出した。



「光線着弾時刻まで10、9、8」



「大丈夫。きっと大丈夫だ」


 アキトが、恐怖で震えるリュビンの頭を必死にさする。



 金属が激しく擦れ破断する音と共に、砲弾がガーゴヌに命中した。徹甲弾がガーゴヌの主機関の一つを貫き、火花を散らす。


「機関損傷、光線停止。戦闘不能です」

「退避する」


 眩い光と共にガーゴヌが姿を消し、二度目のながとの斉射砲弾は海へと没した。


「敵艦、逃走!」

「戦闘終了。周囲の哨戒を行え」


 ディアモンの艦内にもガーゴヌの逃走は伝えられた。


「助かったみたいだ。リュビン」

「ほんとに……?」


 リュビンはアキトの腕の中で天井を見上げた。


「ああ、敵は逃走した。もっとも、宇宙の姫君はしばらくこの船に乗ることになるがな」


 艦長が、リュビンの方を向いてそう言った。


「なんで?」


 彼女は心底不服といった表情をとる。


「原潜ディアモンの中が用意できる中で一番安全な場所だからだ」


 ディアモンは、太平洋に向けて舵をとった。


「君は一応このディアモンを降りても大丈夫なんだが……」


 リュビンは上目遣いで彼の顔を見つめながらアキトの服を強く掴む。


「俺、この子を守りたいです」

「気に入った!」


 艦長とアキトは固い握手をした。

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