バベルの塔という壮大すぎる設定を基盤にしながらも、権力争いや人間の愚かさ、そして言語やコミュニケーションの力を巧みに絡めていて、まるで現代の闇を捉えた人間ドラマの様でもある、と思いながら読ませていただきました。
特筆すべきは言語の混乱とそれに伴う「暗号」の使用です。
バベルの塔の物語では言語が分かれてしまうことで人々の協力が難しくなるわけですが、この物語ではその混乱が逆に戦略的に使われるという点が新鮮でした。
暗号という手段が「協力」と「対立」の両方を生むところが非常に興味深いです。言語というのは人々を繋げるものであり、また分断するものでもあるというテーマがしっかりと描かれていると思います。若い書き手の作品にしては老成している、そう感じました。
また、ニムロド王の死を受けて起こる社会的・政治的な混乱もリアルに描写されており、人間の弱さや権力に対する欲望がいかにして混沌を生み出すかがよく表れています。まるで今の時代を見ている様です。特に人々が信じたい「嘘」を信じようとするところや、冷徹に計算して行動する貴族の姿は、悲劇的でありながらも現実的な描写です。
この物語の最後、バベルの塔が崩れ落ちるシーンは非常に象徴的です。塔の崩壊は単なる物理的な崩壊ではなく、人間の夢や希望、愚かさの象徴が破壊される瞬間として描かれています。(創世記には塔は完成しなかった、との記載はあるが崩れたとは書いていない)
塔の崩壊がもたらすのは、住民たちの安住の地の喪失ではなく、無駄な争いの象徴的な終わりです。この部分には、無駄な努力や争いが最終的には何も残さないという教訓が込められているように感じました。
個人的には「愚かさの中に幸せがあるかもしれない」という一節がとても印象に残りました。
この言葉には、無知であったり、過ちを犯していたりすることが必ずしも不幸ではないという、人間の生き方に対する深い哲学的な問いかけが含まれているように思います。
多くの登場人物が愚かに見えますが、それでも幸せを感じながら生きていたという点には、救いがあるように思います。
総じて、この物語は人間の愚かさ、権力闘争、コミュニケーションの重要性、そして物語の終焉を通じた深い哲学的な大きな問いかけを読者にしている作品だと私は思います。
読むのとっても大変。大昔の世界史の知識を脳内で大集合させ、ときには整合性を調べたりもしました。(そうしたくなると思います)そして、それが、見事に、外さない。
だけど、読んで欲しい。アンダー24作品です。