第二章:~変わりゆくキャロルと消えぬ憎しみ~
年月が経ち、キャロルは村の青年・グレアムと結婚しました。
グレアムは誠実で穏やかな人柄で、
彼の優しさはキャロルの心を少しずつ溶かしていきました。
キャロルは最初、グレアムの優しさが理解出来ませんでした。
キャロルは幼い頃から、生きるためには力を持つことが必要だと考えていたのです。
村の中では愛想よく振る舞っていたものの、
キャロルは本当の意味で、他人を信じたことはありませんでした。
ですが、グレアムは違いました。
彼はどんな時も、変わらずキャロルや人々を大切にし、
時には何の見返りも求めずに他人を助けることさえありました。
「なぜ、そんなに他人(ひと)に親切にできるの?」
と、グレアムに問うキャロルに、彼は優しく微笑みながら返しました。
「親切は巡るものだよ。
どんな行いも、いつか必ず、自分に返ってくる。
それに……誰かを傷つけるより、誰かを助ける方がずっと気持ちがいいだろう?」
キャロルはその言葉を受け止めながらも、まだ完全に理解は出来ませんでした。
ですが、グレアムと過ごすうち、だんだんと、彼の穏やかさや優しさが、
少しずつ、少しずつ、自分の中にも広がっていくように感じました。
やがて、キャロルは母となりました。
小さな命を腕に抱いたとき、彼女の心の中で何かが変わりました。
赤子の目は純粋で、何の疑いもなく母を見つめていました。
「この子が笑顔で生きられる、そんな世界を作っていこう…」
かつてのキャロルなら考えもしない事でしたが、
愛しい我が子を育てる日々の中で、キャロルは気づいたのです。
力で支配するだけの生き方は、幸せには繋がらない、と。
次第に、彼女は森へ行くことをやめ、
動物たちを傷つけたいと言う気持ちも無くなって行きました。
過去の行いを胸の奥に封じ込め、
ただ穏やかに、家族とともに生きる道を選んだのです。
家族との愛に満ち足りた生活を送る中、
キャロルの中の邪悪さは完全に消え、
穏やかで裏表のない、優しい女性へと変わって行ったのです。
しかし、そのキャロルの変化を知ることのない者たちがいました。
森に残された子オオカミ達は成長し、やがて新たな群れを成すようになりました。
母オオカミが受けていたキャロルの残虐な行為は、オオカミ達の間で語り継がれ、
キャロルという名はオオカミたちの中では『悪意の象徴』となっていました。
オオカミたちは森で語り合いました。
「人間の女、キャロル。あの者の血は今も流れている…」
キャロルは自らの過去と決別し、新たな人生を歩もうとしていましたが、
オオカミたちのキャロルへの憎しみは年月を重ねる毎に深まり、
次の世代へと引き継がれていきました。
オオカミ達の悪意の連鎖は、静かに、しかし確実に続いていたのです。
続く~第三章へ~
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