第9話: 妙に優しい薬師

「できたぞ。タマネギは入っていないから文句言うな」

前もって注意しながら、ゲールは私に出来立てスープを渡す。私たちはいつもの昼ご飯を堪能して、仲良く三人で揃っている。

私は料理ができないので、カフェの料理人であるゲールはいつも作ってくれている。

「わたしのもタマネギ入っていない?」

「あんたの分はない」

まあ…マリーは人間の飯なんていらないから、隣に座っているだけだけどね?

じゃあ食べよう~!

「っ…」

これは…やっぱりタマネギがまだ入っていた…しかもちょっと熱すぎる…

「…」

私の反応に気付いたゲールは私を見て、目を上に向ける。やっぱりくるか。

「美味しいですね」

しかし、文句を言わずに、私はタマネギを飲み込んだ。

「…?」

「む?どうしたんですか?私をじっとみて?」

「いや…」

いつも口喧嘩は…起こらなかった…起こらなかった事でゲールは違和感を抱く。なにがおかしい…もう一押しいるのか?

「お前に味覚があるなんて驚ているだけだ」

…どうだ?とゲールは片目を閉じて、私を一瞥する。

「料理に関して疎いな私ですが、そうですね…味覚の薄い私でも美味しいと感じる料理が作れるぐらい、ゲールの腕は凄いですね。本当に美味しいです」

「はっはぁ…?」

褒められた、カミラに…?とゲールは内心で戸惑う。

「誰だ、お前」

優しすぎるし、冷静すぎる。これは自分の知っているカミラじゃない。

「え?何か言いましたか?」

「いや、気にするな」

でも寧ろ…これでよくないか?いつも喧嘩しているだが…いくら少し楽しいとも思う事があっても、あれは毎日となると普通に疲れる。

だからゲールは口を摘まんで、自分の食事に集中する。詳細は知らないけど、なにか変わったとゲールは薄らに感じる。気のせいなだけかもしれないが…



「気持ち悪い」

ゲールの頭によぎったのはまず、そんな感想だった。汗ベタベタで起きてしまって、頭の中が脈打つ。まともに考えられない。

窓の外はまだくらい…つまりゲールはまた体調の悪さで夜中に目を覚めてしまった。

「最悪だ」

これだったら顔を洗いに行くべき。どうせこのままではまた上手く寝られないだろうし、気持ちが軽くなるかもしれない。

ゲールは重い足取りで自室から廊下にあるお手洗いへ向かう。

「カミラは遊ぶたいの?クッキー貰える?貰っていい?」

「シーってば!声を小さくしてください、ゲールはまだ眠っています!」

「どうやってする」

「どうやってって…?あれ?そういえば声の音量ってまだ構想中でしたっけ?ごめん、今すぐ追加してみますよ」

ですからとりあえず口を開かないでくださいっとリビングからカミラの囁き声を僅かに聞こえる。マリーの声は日常会話の音量のおかげで、彼女の声はゲールにはっきり聞こえた。…

「こんな時間にあのバカはなにをしている?」

マリーをスリープモードから起こして、どうするつもり?

「マリー、その…聞いてくれますか?少し真面目な話ですけど…」

「…」

「私に答える為なら口開けていいですよ」

「はい」

「私、これからもっとマリーちゃんをレマリーアップするために、努力したいと思います。今までのペースよりもずっと」

「そう?…」

「ですからできれば…マリーちゃんにも一緒に頑張って欲しいです。私がどれだけあなたの体を加えてもしても、結局効果があるかどうかはマリーちゃん自信の手にある気がします」

つまり努力のしない者は才能があっても上達しない。私たちにできるのは、マリーの『才能』のスペックを上げる事だけだ。

「ですので、まずはゲールの誕生日や好きなアイスの味を復唱できるように、頑張ってくださいね。寧ろ今のレマリーでもできるはずですけど…」

「チョコレート」

「違います…やっぱり技とでやってますね…」

「バニラ」

「それ、飽きないんですか?」

「しない」

真面目な話をしているのにと私は一人で嘆く。ゲールは廊下の隅から私たちをずーと見ていたことなんて、最後まで気付く事はなかった。

ゲールは静かに自室に戻って、僅かと微笑む。

「今なら少し、安全に眠れると気がするな」



「おい、しっかりしろ」

「ふぇえ?」

横から肘打ちを食らった私は我に帰る。カフェのバーの後ろに立っていて、ふらふらと襲ってくる眠気と苦戦する。

「あぁ?ゲールさんですか…何ですか?」

「何ですかって…客に呼ばれてんだぞ?」

「はぇえ?そうですか?」

私はねむねむな目を擦って、ゲールの指しているテーブルを見る。気まずそうに一人の客は空っぽなカップを上げて、飲み物のリフィルを注文する。つまり私の責任だ。

「あっ、ごめんなさい、今すぐ行きますので」

「おぉ…気をつけろ」

「はいー」

私はなんとか自分の体を動かして、ふらふらな足取りで客のテーブルを目指す。

睡眠、スリーブ、眠りたい、寝たい…でもダメだ。いくら私の脳がそう叫んでいても、願っても、消費する時間が惜しすぎる。

この数週間私は毎晩も毎晩もマリーの開発に手掛けて、彼女を進化させようとした。体が限界に近いのは言うまでもない。

「コーヒーでしたよねぇー?はいお代わり取りに行きますー」

「ジュースだったっが…もう行ってしまった…」

私は客からカップを取って、バーに戻る。けどその前に、今のマリーちゃんをみてください。

「どうだったの?美味しい」

「あぁマリーちゃんありがとう、美味しかったよ。でもマリーちゃんの料理もいつかたべてみたいなー」

「そう?クッキーを使うけど、それでもいい?」

「いやクッキー食材と思わないけど…?」

客とのやり取りは…人間らしくなっている…これは、私の努力の成果。声も、音色も、文法も、動きも、全ステータスが上昇している。

でもまだ完成していない。まだ人間になっていない。私にできることはまだっ

「聞こえんのか?」

「ふぇえ?」

またゲールが目の前に現れた。さっきまではバーの後ろでコーヒーを作っていたのに、足が早い。

「ふぇえじゃない、なんでどけないのか、邪魔だ。というかさっさとあのお客さんのリフィルをしろ」

あっ、そうだった。マリーちゃんに気を取られていた前に、客のリフィルに向かっていた

私は本来の目的に戻ると、私と入り替えにマリーはパタパタのゲールに前に現れる。

「マリーか、どうした?」

「お願いがある、聞いていい?」

「またクッキーか」

「違う」

「ほう?」

クッキー以外のものを願うマリーなんて、初めてみたかもしれない。

「カミラを休ませていい?なんだか危なそう」

「あいつの心配か…」

やっぱマリーらしくはない。

「わからない、けどなんだかモヤモヤする」

「モヤモヤ?」

なんだそれ、マリーにそれがわかるのか?

「だが確かに、今のあいつはどうみても危ない上に、邪魔だ」

客の注文を聞いていなかったり、バーとぶつけたりして…怪我をするのは時間の問題だ。

今日は店は忙しい日だが…

「いいだろう、伝えてやってくれ。彼女が断ったら強引に二階まで運んでもいいぞ?」

マリーの最初の願い事だ、断るわけにもいかない。

「わかった、ありがとう」

「おっ、おぉ…」

マリーから感謝の言葉を貰った…

「あれも初めてだな…今日はどうしたんだ」

様子がおかしいのは私なだけじゃないみたい。

「待ってください!マリーちゃん!私はまだ全然平気だかっらぁああ?!」

「暴れないで、これはカミラのためだから」

「や、辞めて?!力強っ?!?」

子供体躯のマリーに運ばれて、成人女性である私は無駄に暴れて、情けない姿をカフェ全体にばらす。

「やっぱり彼女は断ったか…周りが見えなくなっている程疲労しているって事か」

ゲールの今日初めてみたものの数はどんどん増えていく。

「そもそもあいつはなんのために頑張っているか。俺が給料を増やすとでも思ってのか?」

わけがわからん。

ゲールはそうと考え込みながら、店の残り開店時間をマリーと二人でなんとかやった。

あの自殺しがちだったマリーはもう負担ではなく、寧ろ、周りに頼りになれる存在となりつつある。ゲールその親としては嬉しく思っているが…なんだか不思議だ。マリーは進化と共に変わっているとういうか、どうやって扱っていいかはわからない。

「ゲールの誕生日、五月でしょう?」

「違う…」

まああ…どうしても変わらないところはまだあるがな…記憶力は十分にアップグレードしてやったはずだが…とゲールは怪しい目でマリーを睨む。

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