第2話

そして本日、

つゆりちゃん出演映画の舞台挨拶に来ている。

チケットは鬼倍率だったが、最前列から3列目をGETしてしまった私は、

近々、病気か事故で死ぬんだと思います。


しかし今の私なら、

つゆりちゃんが目の前で美しく笑っているので

無事に成仏できそうです。

ああ。神様、仏様、こんな私にも幸運をいただき

心の底から感謝いたします。


胸の前で十字を切って、両手の指を絡ませ祈りつつ、

つゆりちゃんの笑顔を目に焼き付けようとガン開きで見つめる。

すると、ふいに、つゆりちゃんがこちらを見た。

パチリと目が合って、そしてニコリと笑って手を振った。


え。今、私に……


私が放心状態でいると、

観客席からキャー!と悲鳴が上がる。


「ちょっと、ちょっとー!?

 つゆりちゃーん?僕の話聞いてるー?」


主役である、壮絶人気イケメン男性俳優から

突っ込まれているつゆりちゃん。


「あ。すみません。お客様が可愛くてつい。」


「てか、主役の僕より黄色い声すごいの、やめてくれるー!?」


会場からドッと笑いが上がる。

私の周りの席の子が、今目が合ったかもー!と

こそこそと話し合っている。


そ、そうだよね、ライブや舞台でよくある、

”今、推しと目が合った気がする”状態だよね。

私じゃなくて、他のお客さん見てたのかも。


跳ね上がった心臓をなんとか抑えていたが、

舞台挨拶中、何度も私の方をチラチラと見ている気がした。


私が他の俳優さんを見ずにつゆりちゃんしか見てないから、

そう感じるだけ。気のせい。絶対。


そう、言い聞かせた。

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