Case.05 労災って下りますか【適用外】
— — — — — — — — — — —
【冒険者ギルド こども向け支部 質問箱】
Q.サウスウッドで蝶の幼虫を見ました。
でも、蝶々は全く見つかりません。
どうすれば蝶々に会えますか?
P.N.誘蛾灯
A.
サナギから
などの
とっても
— — — — — — — — — — —
「勇者、スゥ村の大地に立つ! って思うわけですよ、僕はね」
文章として成立するか怪しいセリフを言い放ったタナカは、金髪を振り乱しながらポーズを決めた。
それを遥か後方の木の陰から
勇者パーティー結成から51日目、彼らは数々の苦難を乗り越え、ついに初級ダンジョンであるサウスウッドを突破したのである。ちなみに、サウスウッド平均踏破日数(冒険者ギルド調べ)は2日です。おい。
そして今、ようやく森の南にある村落、スゥ村へと到着した次第である。
王城事務局に登録してあるデータでは、総人口142人、35世帯、村長はマコロ家による
村の南・西には海洋が広がり、東は険しい山道と、四方を自然に囲まれる地形の為、冒険者や商人以外の出入りは少ない。
主な特産品は砂糖と海産物。郷土料理であるハゼの煮付けは絶品だと言う。口コミで高評価のお店はチェック済みだ。楽しみ。
「日も暮れてきたしぃ、今晩の宿を探さなくっちゃッ!」
「旅の疲れもありますしな!」
ドロステアとフロウも、タナカに続き
と、村の入り口で、彼らは一人の少女とすれ違い、互いに
「あれっ? もしかしてアネッタ
「アルじゃない! なんでここに?」
私だと分かるなり、彼女の顔がパァッと明るくなった。
アル・フォッシルは私の妹でフォッシル家四女、19歳。私に似て小顔だが、表情から見て取れる活発さと元気の良さ。右目の下にある泣きぼくろが少しだけ大人っぽさを
「いやぁ、風の噂でサウスウッドに強い魔物がいるって聞いてね! ちょっと狩りに来たっ!」
にしし、と笑顔を作るアル。ごめん、それたぶん私の事だわ。
「アルあんた連絡もなかなか寄越さないから、母さん心配してたよ?」
「ごめんごめんっ! 昨晩ようやくスゥ村に着いたばっかりだったんだよ」
彼女は昔っから自由
「ねぇ、せっかくだからボクの狩りに付き合ってよアネッタ姉!」
そう言って右肩を前に
「あんたの期待する魔物とは出会えないでしょうけど……仕方ないわね……」
勇者たちも、さすがに今日は宿で休むだけだろうから、監視する必要も無いか。
深く息を吐きながら、若草色のローポニーテールの留め具を締め直す。アルの横に並んで森へと足を向けた。
◇ ◇ ◇
「冒険者の活動は上手くやれてる?」
「ぼちぼちかな〜。生活には困らないけど、最近は刺激が足りなくってね〜。だから、一度王城都市に帰って、東の大平原に行こうと思ってるんだ」
夕日の差す森の中、久しぶりに姉妹の会話をしつつ、二人は草木を
王城東門から東へ広がる大平原は、人間と魔物の勢力図が衝突する、いわば戦争の最前線だ。数年前に大合戦があったが、今は
「そんなわざわざ危険な土地に……」
「大丈夫だって、スゥ村に待たせてる仲間達も優秀だし! それにボクだって——」
と言いかけて身体を寄せて私を制止させ、アルは前方を指差した。
見ると30歩ほど先の距離、マタンゴが1匹
アルは素早く静かに弓を構え、矢を
一閃————
「はーーっ、相変わらず上手いわね、アルの
「へへーっ! ちょっと狙いからズレたけどね」
抵抗せずニコニコと撫でられ続ける様子も昔のままだった。
フォッシル家は代々、風の精霊・シルフィードと契約しており、個人差こそあれ疾風魔法を扱える。
アルの場合は、武器や射出物へ風を
ちなみに私は補助魔法が得意で、
「お家で弓の練習してた頃が懐かしいな〜」
ドロップした宝箱に寄りながら、矢をクルクルと回して遊んでいる。
彼女が加減をしないもんだから、練習するたびに屋敷の塀や
「ところで、アネッタ姉はなんでこんなとこに居たの? 事務員じゃなかったっけ?」
「え!? あ、あぁ、それは……」
勇者の監視役をしている事は、家族にも話せない。というか、あんな変人たちに家族を関わらせたく無いのが本音だ。
「あっ! さてはさっきスゥ村に来てた人達の中に、アネッタ姉の好きな人がいるんでしょ!」
「はぁ!?!?」
「ボクには分かっちゃったな〜、あの大柄で顔が怖い人でしょ!」
全ッッッ然好みじゃない。
「よ、よく分かったわね〜……」
けどもうそういう事にした方が話が早いわ……
「だと思った! 大丈夫っ、家族には内緒にしててあげるから!」
ニンマリと笑みを浮かべる。言う。この顔は絶対言う。知ってる。そして止めても聞かない。
「ひ、秘密にしてくれるなら、今晩の夕食を奢ってあげるけどな〜?」
「ホントッ!?」
途端にパァッと顔が明るくなる。分かりやすい子で良かった……
「スゥ村にね、珍味を取り扱うお店があるんだ! メニューにあった、古代深海魚のホイル焼きが気になってたんだよ! そこ行こう、そこっ!」
そしてアルが悪食なのをすっかり忘れていた……完全にやらかしたわ……嗚呼……ハゼの煮付け……食べたかった……
ウキウキとスキップするアルの後ろを、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます