Case.02 有給って使えますか【審議中】

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【冒険者ギルド こども向け支部 質問箱】


Q.ダンジョンボスって なぁに?

  P.N.†漆黒しっこくべにズワイガニ†


A.まちむらそとには、もり砂漠さばく

  遺跡いせき迷宮めいきゅうなど、さまざまな魔物まもの

  生息地せいそくちがあるのじゃ。

  そしてその生息地せいそくちごとに、

  ほかよりも一際強ひときわつよ魔物まものがおる。

  それが『ダンジョンボス』じゃ!

  たおすのは大変たいへんじゃが、

  金色きんいろ宝箱たからばこをドロップするから、

  があればいどんでみることじゃ!

  きみもマモノン、ハントじゃぞ〜!


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 拝啓 王城事務局 同僚の皆様


 お元気でしょうか。こちら勇者パーティー監視役のアネッタ・フォッシルです。


 たまたまコアトルを討伐してしまって以来、なんだか二の腕が太くなった気がします。飲みの場で異性から「俺、腕太い子はちょっと(苦笑)」とか言われたら、たぶん泣きます。


 辞令を受けてから、三十と二日が過ぎました。勇者パーティーは元気に活動しています。お陰で私もお仕事を続けられています。


 先日、ついに彼らが宝箱を見つけました。素晴らしい進展です。木製のですが。


 はい。今日も元気にサウスウッドへ出かけて行きました。今度は何をしでかしてくれるんでしょうね。楽しみです。


 この職に配属されてから、4回ほど上司様——じゃなくて、ドラトリッヒ氏が視察に来てくださいました。どうやら私が上手く仕事出来ていないんじゃないか、と心配してくださったようです。


 初めていらした時の朝は、鼻を膨らませ目尻を引きらせておいででしたね。


 3回目いらした時の帰り際、頭を抱えて「すまなかった」と言葉をらした事には少し驚きました。


 前回の視察の時には「今日は私が代わりに監視しておくから、アネッタくんは帰って休みなさい」と言っていただけて、とても嬉しかったです。


 ドラトリッヒ氏、またの視察をお待ちしております。


 監視役に異動してから、仕事柄、現在32連勤目です。


 物は試しと、有給休暇を申請しましたが、進捗しんちょくいかがでしょうか。


   ◇ ◇ ◇


 さて、本日は勇者パーティーの三人について詳しく書きしるします。記録係から「またか」と思われそうですが、他に書く事が見つかりませんので、しからず。


 一人目は勿論、勇者でありパーティーのまとめ役、イサム・ファフニィル・タナカ様。聞いた事の無いミドルネームですね。どこの文化圏の方なんでしょうか。


 彼いわくイセカイという地域の出身だそうですが、少なくとも私は存じておりません。浅学せんがくで恥ずかしい限りです。


 目を引く派手な金髪は天に向かって反り立っており、鋭い吊り目、長く高い鼻、ニヒルな口元と、いちいちパーツがとがってらっしゃいます。


 服装は、肩まで見える大胆な黒いシャツ、不必要なほど無数に穴の空いた黒いベルト、そしてなぜかすそに行くほど拡がりを見せる黒い革ズボンと、闇にまぎれるには絶好のファッションです。ただ、金髪との相性は良くありません。


 口癖は「〜って思うわけですよ、僕はね」と個性的で、いつも周りの方々を笑顔にさせております。素敵ですよね(わら


 お持ちの武器は、身の丈ほどある分厚い大剣。構えた時も振った時も、刃先が腰より上まで持ちあがった事はまだありません。今後に期待しましょう。


 また、パーティーの行軍こうぐんが遅いのもこの大剣のせいだと思われますが、イサム様は遅れることを気にしていないご様子です。寛大ですね。


 散財癖があるのも玉にきずです。「魔物狩るだけで超お金手に入るじゃん、マジ余裕〜!って思うわけですよ、僕はね」と酒場帰りに上機嫌になって大声でわめいてらっしゃいました。身銭を切ってやってる者がいる事を思い知らせてやろうか、って思うわけですよ、私はね。


   ◇ ◇ ◇


 続いては、メンバーの紅一点、華も恥じらう微少女びしょうじょ、ドロステア・パメルス(16)じゅうろくさい(合法)


 事あるごとに「私ぃ、まだ16歳だからぁ、守ってね?」と鳴き声を発する生物です。その都度つど、よそ見していたイサム様が被弾するのをよく拝見致します。


 王国では、異性との交際や同衾どうきんは18歳以上からと法律で厳しく決められておりますが、冒険初日に彼女が宿屋の亭主に身分証を見せて以来、何事もなく宿泊できております。彼女には法律が通用しないようです。


 歩くたびに揺れる朱色のツインテールからは、フローラルを通り越した香りがただよいます。年齢より幼く見える顔立ちで肌は雪のように真っ白、不思議なことに汗も真っ白。唇は太った蝶の幼虫のようにプルプルと肉厚です。


 花畑のようにフリルが散りばめられたワンピースから、暗所のキノコのように生える華奢きゃしゃな四肢。スカート丈は限界ギリギリ。そよ風が吹くだけで、秘密の花園が見えてしまうかもしれませんね。


 そんな彼女は、ミドルソードとラウンドシールドがよく似合う、戦士です。念の為もう一度書きますね。戦士せ ん しです。


 勢いよく振り下ろすその剣は、肩も肘も手首も何もかも不安定なお陰で、いつも魔物にかすり傷を与えます。優しいですね。


 また、戦士の盾は敵の攻撃をナナメに受け流すのが基本スキルですが、彼女は全て真正面で受け止め、毎回買い替える羽目になっています。武器屋に優しいですね。


 勇者イサム様とは随分と仲がよろしいご様子で、街中でも道中でも戦闘中でも、ところ構わずに————申し訳ありませんが、今回も記述を控えさせていただきます。


   ◇ ◇ ◇


 最後に紹介するのは、勇者パーティーの裏エース、魔導師フロウ・フリトクス様。


 由緒正しきフリトクス家の七男。炎の精霊・イフリートと契約している家系なだけあり、魔法の素質は素晴らしいです。


 欠点があるとしたら、詠唱から発動、着弾までの間、集中する為に目を閉じてしまう事でしょうか。その影響で、魔法の命中率はすこぶる悪いです。


 今日までの攻撃成功数は2回、イサム様に当てたのが5回、ドロステアが1回、自傷3回です。死者を出していないのは奇跡ですね。詳細は過去の報告書をご確認ください。


 王城事務局内では、フロウ様の魔法が次はいつ成功するかを当てる賭博とばく流行はやってると聞きました。私も一口乗りたい所です。


 全身を紺のローブで包んだフロウ様のお姿は、まさしく正統派な魔導師。背丈せたけは混雑する街中で見失う心配が無いほど高く、わずかに見える手首や足首は棍棒のように太く、ゆったりとした布の上からでも隆々りゅうりゅうとした胸筋が浮いて見える程です。戦士の枠がすでに埋まっているのが非常に惜しいですね。


 フードに隠れたその御尊顔は、治安の悪い裏路地から現れても違和感の無い精悍せいかんさです。子供が直視するのはけた方がよろしいですね。


 性格は温厚で口数は少ないものの、適切な場面で冷静さを発揮しております。


 以前、街中でイサム様がドロステアの服を脱がそうとした際には、「イサム殿、それ以上やったら、こう、ですからな」と言いながら石造りの壁に穴を開けておられました。とても頼りになりますね。


   ◇ ◇ ◇


 気付けば羊皮紙の余白が無くなってしまいました。私とした事が、つい興奮して書き過ぎてしまいましたね。


 本日の勇者パーティーが残すであろう功績は、またの機会につづろうと思います。大長編の冒険たんにならないことをせつに願うばかりです。


 報告は以上になります。よろしくお願い致します。

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