第2話

そこへ忽然こつぜんと現れた“救世軍”。

彼らは、あらゆる国、異なる人種が互いに歩み寄る平和的な解決への道を模索し、この恐ろしい争いを終わらせるため、全身全霊を傾けた。

しかし、英雄といえど、所詮は人間。

小さな力で強大な力を操る国々を説得し、大戦を終結させるということは、蟻がライオンに挑むことに等しい。

ゆえに志半ばで倒れる者も少なくはなかったという。

破滅の影が忍び寄る中、英雄たちは打ち捨てられた太古の遺跡で、これまで誰も知らなかった大きな力を見出した。

超自然エネルギーの源、13個の究極のオリジン・エレメント。

森羅万象を司る力、すなわち

火、水、風、土、雷、蒸気、氷、マグマ、砂塵、生命、光、闇、時空。

彼らは、それらのエレメントとの融合を望み、そしてその力に見合う、正しく、勇敢で賢い英雄13人に、それらを託した。

選ばれた13人は究極のエレメンタル・エネルギーの力を得て、この世の闇を振り払い、やがて世界に再び平和が訪れた。と、歴史書は結ばれている。

終戦を迎えた日を、古代の人々は“煙に覆われて姿を消していた太陽が再び地上を照らし始めた日”として、太陽のサイクルを意味する年号、“ソリス・エクボールバター元年”と定め、これが現在も使用されている年号、ソリス歴の由来となっている。

伝説の13英雄は、人々から賞賛と畏敬をもって、いつしか“守護者”、もしくは“パラディン”と呼ばれるようになっていった。

彼らの中のオリジン・エレメントは、彼らの死と共に魂を離れ、偉大な力を受け継ぐに相応ふさわしい者に再び宿るのである。

「これを“サイクル”と呼んでいます。

サイクルは今も繰り返され、これからも繰り返されていくのです。

決して絶えることなく、永遠に、永遠に。

この世の平和を守るため。

おしまい。」


アメリアは本を閉じた。

秋の乾いた風が心地よい満月の夜。

 王都から数百キロ東、ヴェントゥム第二の都市、ヴェントゥム=テラ。

この街に豪奢ごうしゃな館を構えるメルカン家の一室で、アメリア・メルカンは、弟シロにせがまれ、守護者伝説の本を読んでやっていた。

シロは今年7歳になったばかり。

両親が仕事で留守にしがちのせいか、甘えん坊である。

 

「ねえ、お姉ちゃん、もう1回読んでよ。」

ベッドの少年は目を輝かせ、姉にせがんだ。

「もう1度?今夜はこれで2回目よ?昨日だって読んだでしょう?」

 アメリアは優しく弟をさとす。

 「だって、僕、パラディンの物語が好きなんだもん。すごくカッコイイ。」

守護者伝説は、世界の人々に広く親しまれ、特に子供たちに人気のある物語だ。

シロもまた、幼い日にこの本を父親からプレゼントされ、以来、虜になっている。

 「そうね。知ってる。でも、もう寝る時間よ?」

 姉は弟に毛布をかけ、彼のひたいにそっとキスした。

 そしてベッドサイドの明かりを消し、「おやすみなさい。」と声をかけると、弟の部屋を出た。

 幼いシロは1日の疲れから、すぐに眠りに落ちた。

 こうしてメルカン家の夜は暮れていく。

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