災難の騎士: アエヴィテルヌスの系譜

@Absalon

第1話

悠久の青い空のもと、人々がかつてない平和を謳歌おうかする今。

 東大陸テリウス南部に位置する世界4大国家の1つ、緑萌え、光あふれる国とうたわれるヴェントゥム王国。

 その王都中心を流れるフルジェール川の滔々とうとうたる流れが、“えよ、ちょうぜよ、王のすこやかなるが永遠なれ。”と歌う。

 賢王イスクロ・ベイヤードの統治のもと、大国は大いに発展している。

 街道は整備され、人や物がひっきりなしに往来し、潤滑な物流が経済発展を支えていた。

 王都の城壁の内側は多くの街頭やイルミネーションで彩られ、夜を知らぬ街として知られている。

 郊外の緩やかな丘陵地帯には、広大な田園地帯が広がっており、そこで収穫される様々な農作物が国民の食のかてとなる。

 また、超自然結晶体、通称“エレメンタル”の精錬技術において、世界トップクラスの技術力を誇り、これらの鉱工業や精密機器等の貿易によって経済も大いに潤っていた。

 平和の国、ヴェントゥムは軍を持たない。

 その代わり、王立騎士団が存在しており、他国の軍隊に比べれば規模は大きくないものの、特殊な力、すなわちエレメンタル・エネルギーを扱う特級の精鋭を揃えている。

主に国境警備や国王の警護に従事しているが、有事の際には、その力を遺憾なく発揮する戦士である。

四半世紀ほど前に起こった、ある大事変以降、彼ら騎士団の戦力が行使されていないことは、今では国民にとって大きな誇りとなっている。


しかし、これらの輝かしい平和の源には、暗く淀んだ、混沌とした負の歴史があった。

今より2000年余り昔の古代。いにしえの伝承は語る。


かつて世界には多くの国が林立していた。

人々は今とは違い、国により異なる言語を使い、異なる神を信仰し、異なる思想を持っていた。

人々は、お互い相容あいいれれることなく、国や人種の間で争いが絶えない、いわゆる“暗黒の時代”である。

 無意味な戦いによる混乱と破壊の中で多くの血が流され、親は子の死に血涙けつるいを流し、友は同胞の亡きがらにすがり泣く。

 そんな悪夢のような時代だった。

その原因は、超自然結晶体エネルギー。

古代の人々は、このエネルギーを有益な方向ではなく、恐ろしい兵器として利用した。

小さな争いはやがて未曽有の大きな戦乱へと発展し、世界人口の3分の2の尊い人命が奪われたという。

生き残った者は、この“黙示録の終末”を終わらせるための唯一の解決策が、“人類の絶滅”以外にないと考え始めていた。

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