第3話 midnight/Mad BLACK$'crow.
「おい、シキ。出待ちの奴、大丈夫だ。」
「....あぁ、うん。よかった。」
「.....ったく、出待ちにファン同士で足絡めてずっこけてんじゃねぇよ!おい、そこのバカそうな子、学生?お前は付き添いか。」
「はいぃ...ホントに私の友達が...ごめんなさい!」
ばっ!と頭を下げて、ベンチに座るシキとドラムのケイスケ、立ち上がり頭を掻くギターのナズ、バンドのメンバーらに泣きべそをかく。
「もういいよ、ケガ大したことなくて良かった。インディーズ....って言ってもアタシら客席けっこう埋まるしホント....いやそんな多くない出待ちなんかでもハコ出たら夜だし外暗いから、気を付けて。今日は友達も来てくれたんだね。」
開演が夜7時過ぎから公演後は夜の8時を過ぎた頃。『midnight』と言うだけあって夜遅いのは仕様のバンドだった。
ケガしたファンの救急車を呼ぼうとすると、ベーシストのアキヒが大きな声でダァーーーーー!と叫ぶと、後ろにさがるようにと言うや否や出待ちをしていてずっこけた友人と鈴雀凛々をもドカドカと大きな車体の車に押し込んだのだ。
――――そして今に至る。
「俺ら救急車なんかハコ前ハコ付近なんかでオオゴトんなったらまずいからさ、いやホント。寝ころべる車で良かったわ。お前らガチで気を付けて?いやホント。泣くなって。」
「うん.....。」
「うぉい!いいか?俺らとかシキがずっこけてたらどうなってたか......俺らみたいなインディーズってのは、“
「はいはい!もう良いだろ、今何時?21時?」
アキヒは饒舌だ。食い入るようにそもそも出待ちに関して寛容ではないベーシストを夜も遅いと、わかった、と静めるのは高身長でロック歌唱のカリスマ、シキ。
「ひっく....はい、あの、シキ様“レイン”交換してください!うぅ~.......
私シキ様と同い年で一目惚れだったんです、ボーカルのシキ様が憧れで....でもこんな風に出待ちでケガしちゃって....レインしてもいいですか?今日の事も....ぐすぐす」
「うん、そうだな、交換したげなよ。この子女の子だし、シキと同い年?だっけ、手紙にかいてた。他のバンドもこのくらいやってる。もう21時?.......俺達とどうの~なんてなんないから。さ。」
【男女の文春なんかにならない】から、と判断したのだろう、しかし『早く帰って寝たい』が正しい演奏の腕は確かなギターのナズは、ちゃっちゃと“レイン”でも“メアド”交換でもして手あてを終えた患者もさっさと乗っけてさっさと帰ろう、と言っているのだ。
「あぁ、うん。じゃ、」
「あっあ"りがとう!シキ様!」
「スマホ....それ、アタシの写真?」
ゴテゴテにデコったスマホの背面にはmidnight/Mad BLACK$'crow.のボーカル、シキの写っている写真を切り抜いてケースに入れていた。
読みは【ミッドナイトマッドブラックドルズクロウ】、通称 【$'crow.】(ドルズクロウ)。
「はい!ブロマイドが欲しくて....でも売ってないから友達が作ってくれたんです。この画像のシキ様すっごくお気に入りで。」
ホントは自分で作ってる。
$'crowはインディーズで毎ライブ客席が埋まるがグッズを販売しない。
売っている物はCD。
理解が出来なかった。
ライブに行けばグッズが欲しくなるのがファンなのだ。
「えー、嬉しい。かっこよくデコってくれてるんだ。この透明ホイップも...えーと、」
「
「凛々ちゃんの手作り?」
「スマホケースは自分で作ってます。」
「えーすごい。あ、じゃあ“レイン”。..........じゃあ、ケガした子、大丈夫だったらレインしてね。」
「はい!」
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・・・midnight/Mad BLACK$'crow.
ボーカルのシキ、ベースのアキヒ、ギターのナズ、ドラムのケイスケ
四人で結成された実力バンド。
小さなハコで始めた演奏。それはすぐに客で溢れた。実力の他に、ある読者モデルの目にとまったのだ。
ファッション雑誌のよくある読者モデルのプロフ紹介コーナーに、一言『今ハマっているコト』
『【midnight/Mad BLACK$'crow.】の曲を聴くコト☆初めてライブに行ったよ♡すっごくオススメ!』と、女の子が描いているであろう文字が載っている。
雑誌『キュン♡チェリー』読者モデル、
『キュン♡チェリー』の購読者層は中高生で、キュン♡チェリーの上にファッション雑誌『CHERRY』があり、
そして、伊月明日葉の姉にあたる
毎月書店で発売される『キュン♡チェリー』を購読し、雑誌の隅々まで楽しく読んでいる読者も多いだろう。その中でモデルのよく聴いている音楽やバンド名が載る事はライブを観に行く事への憧れやライブを観に行こうというきっかけになる。雑誌に載っているバンド名を検索し観に来た、そのような客席のようだ。
バンドの宣伝をするようなバンドでは無かった。
結成初期から、いついつライブをします、それをホームページとライブを開催するハコでしか宣伝しない、開催初期は“無料ライブ”の《本気で音楽をするような人が集まる所では無かった》が、$'crowのメンバー全員はSNSでライブ前発信をしない。そしてそれは今も。
音楽を演奏する自分、を、あろうことか一番カッコイイであろう自分、をSNSで見せないのだ。バンドマンの誰も。
それはハコを変えた直後の発売の為、伊月明日葉はハコを変える前の無料ライブを観に行った、のである。
雑誌でのインディーズ音楽のタイトル公開は大きい。
例えそれがマイナーな読者モデルでも、読者層には興味の対象となり、“マイナーな雑誌”にバンド名が載るのとは違うのである。
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