第8話 愛情補正!
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天衣家の別邸だけあり、かなり広いキッチンが用意されている。それに調理器具も充実しており、掃除や洗い物は多かった。
「じゃあそろそろ料理を始めようか」
僕は先程帰宅前に買っていた食材や、森の中で手に入れた果物を取り出す。
どれも普通の果実ではない。バナナや林檎などもあるが、どの果実も特殊な力を持ち、モンスターの味覚を刺激する。
「これ。あげるから今度使うといいよ」
既に一度洗った〈配色リング〉を僕はシノンに渡した。
「えっと?」
魔道具なのは理解できるものの、感じた事がない異質な力だからだろう。少し戸惑いつつ目線だけで僕に説明を求めている。
「これは〈配色リング〉と言って、使用するとモンスターの纏う魔力で、様々な色を見る事が可能なんだ。これにより、モンスターの好みの味が分かるんだよ」
僕は説明しながら紙パックに入った生クリームを取り出し、ボウルに注ぐ。リングから結晶化した魂を取り出して、生クリームに吸収させる。
それを泡立て器で、やり過ぎない様、適度に混ぜていく。
「モンスターは〈愛情補正〉というのがあるんだ。日常的な快適さや、テイマーの愛情が強いほど、基礎能力が上昇する。ドルイ博士も似た様な事を言っていただろう?」
僕は丁寧に説明しながら、料理の手を止めない。手際よく果物を剥き、ボウルの中に次々と入れていく。
「それは確か証明されていない所か、否定された説ですよね? ドルイ博士は未だに可能性を探っている最中らしいですが……」
シノンは優等生だけあり、テーブルに着き、ノートパソコンを広げて調べつつ、僕の話について来ようとしている。
「否定はされてないよ。否定したと思い込んだ研究者が多いだけでね。ドルイ博士も否定されたとは納得していない。それに実際、〈愛情補正〉は存在するんだ」
「クラマル。本気出してみて」
僕は料理をしながら、頭の上に乗っかってるクラマルに言う。命令式に従い、クラマルは欠伸をしながら、抑えていた基礎能力を引き上げた。
「…………ッ」
クラマルの基礎能力が25%上昇し、シノンは目を丸くする。気配で〈テイマー補正〉による強化ではないと感覚的に理解でき、動揺が隠せない。
そんな彼女の様子を気に掛ける事もなく、ぶんぶんと大きな尻尾を振り、眼下で料理が出来るのをクラマルは待っていた。
「理論上存在するはずの〈愛情補正〉。それが何故、確認できないのか。それは〈種族スキル〉を鍛えないと、〈愛情補正〉が発揮されないからだよ」
ゲーム知識をまるで自分の研究成果かの様に語る事は、少し抵抗があるが仕方がない。僕は割り切って淡々と説明していく。
「兄さんは、〈種族スキル〉を鍛える方法を見つけたという事ですか?」
それが本当なら時代が変わる。そう思っているのだろう、シノンの顔には冷や汗が見えており、瞳には期待が込められていた。
「そう。世紀の大発見だよね。僕が完成させた〈裏切りのタトゥー〉を使用して、同じ種族のモンスターを倒しまくれば、簡単に種族スキルを鍛えられるんだよ」
僕は果物を全て切り分け、食パンに生クリームを塗っていく。そしてフルーツを乗せて食パンに挟んだ。
「殆どのモンスターはそれなりに賢いよ。誰が美味しい料理を自分に用意してくれているのか。どれだけ手間をかけてくれているのか、よく見て、理解している。だから他人に頼らず、モンスターの為に時間を割いて、自分で料理を用意してあげた方が良い。それが一番モンスターとテイマーの信頼を築く習慣なんだよ」
完成したフルーツサンドをラップに包み、冷蔵庫で冷やす。でも物欲しそうにしているクラマルに一つだけ食べさせてあげようと、「おいで」と椅子に座って声を掛ける。
「……にゃ!」
頭から僕の顔面を蹴りながら降りて膝の上に乗るクラマル。それを僕は抱き抱えて、口元にフルーツサンドを持っていき食べさせてあげた。
モグモグと口元にクリームを付けながら、美味しそうに夢中でクラマルはフルーツサンドを食べていく。
「…………私にもレシピを教えてくれませんか?」
気不味そうに、どこか羨ましそうに、シノンは口にする。誰かに教えを乞う事に慣れていないのかも知れない。
だが推しキャラの頼みだし、今は僕の妹だ。断る理由はない。
「そりゃあ勿論。じゃあ、庭で兄妹仲良く料理しようか。僕も他の子にご飯あげないと駄目だから」
――――――――
〈あとがき〉
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