第41話 出頭
重厚な木製……を模した扉の前に立つ。
新しい二名の門番の間で、敬礼し口を開いた。
「ゾラ・ソラビアレ少尉出頭しました」
左右から細かい金属音、多分鎧が立てる音が聞こえる……リリリ、って鳴っててまるで鈴みたい。
新人なのかな?緊張してるのだろうか。
そういえば、と過去に撃ち殺した二人の部下を思い出すと同時に門番のインカムだろうか、遠い平坦な声で『通せ』とニナイ参長の声が聞こえた。
門番が鎧を鳴らしながら左右へと別れ、音高く儀仗の石突きを立てる。
木目の走る、暗く乾いた静脈血のような色のドアが音もなく部屋側へ押し開かれて行く。
毛足の長いバーガンディの絨毯の中、深い艶の黒い大机に蜂蜜色の髪を垂らし肘を立てた参謀総長閣下があたしを見ていた。
「入室致します」
敬礼を下ろし、部屋へと入る。
机から三歩前辺りで脚を止め再び敬礼。
「ゾラ・ソラビアレ少尉、お召しによって参上致しました」
閣下は目だけであたしをジロリ見上げる。
「……任務の完遂を認める」
「ハッ!有難うござ……完遂でありますか」
「そう言った。下がれ」
えー!めっちゃ気になるんだけど・・・
「はっ、失礼致します」
敬礼、下ろし踵を返す。
つーか、少将閣下に呼び出されてコレで終わりなの?
前みたいに激励とか処刑とかあると思ってたのに・・・
開けっぱの扉から門番の間を抜け、もっかい部屋を振り返り敬礼する。
・・・・・はよ閉めて!
「ジロー様は御身を死へと誘う刻の軛が解かれたと喜んでおられた」
え?!ちょっとソレ詳しく!!
思わず敬礼が崩れ右足が浮いたところでニナイお姉様の右手が払われ、ドアは閉じたのであった。
再び彫像と化した門番をちらちらと見たあと、再び声をかけるわけにも行かずあーしは未練たらたらでその場をあとにするしかなかったのであった・・・
ときのくびき・・・てなんやのん。
カットして読むと死へと誘う〜解かれた、だから死ななくなったってことでいいんよね?
Modマクロの条件分岐に使うスクリプトコマンドみたいなもんかな。
時=くびき(0)then goto 14 みたいな・・・って14は死亡時のフレーバーテキスト行番じゃん、いけないわ。
時もくびきも変数ってことで、そこに安全な解答を代入する御役に立った!てことよねめでたしめでたし。
思わず漏れてしまいそうになる鼻歌を軍務にあるという強力な自制心で押し留めあーしは踵を高らかに鳴らしながらレクリエーションルームへと向かうのであった。
「・・・やっぱ広い通路よね」
駆逐艦であるブリギットから再びこのユピテリーナへ戻ってみると、まじほんめたくそに広く感じる。
まぁ下手な基地よか全然おっきいしね・・・船体自体がさ、そこそこ手に負えないサイズの小惑星ほどはあるもんね。
部屋に入るにも広い引き込みがあって、レクリエーションルームならそこにどんな体験ができるかがディスプレイされていたりする。
にゅろりと首を伸ばした、大きな爬虫類の模型の滑らかな体をなぜながらあたしは大地の恐竜が栄えた時代を模した部屋へと入っていった。
「あー、半年ぶりなのに凄い懐かしい・・・」
大きなシダという植物に埋め尽くされた部屋の中央のベンチに座る。
帰れたんだ、という実感が濃緑の密林に射す細かな日差しに込み上げてくる。
・・・生きてるっていいな。
そう感じると同時に、明日にも粒子砲弾で微細な粒子に焼き尽くされてしまう自分や撃ち抜いてしまうかもしれない相手、ゲツ等()を想像し・・・何故かたまらない切なさに胸が締め付けられるように痛くなった。
「なに、この感じ・・・嫌じゃないけど、凄く悲しい」
つーかマジでキュンキュンうるさい胸の痛みをナデナデしてると、ガサリと脇の茂みが揺れて入口の模型でお馴染みのラプトルが長い首を伸ばしてきた。
ゾロリと肉食っぽい牙が並ぶ口を開けたアタマを抱いて膝に乗せる。
・・・フフ、ここを教えてくれたお姉様に男の子は恐竜が好きだからって聞いて、ここに居ればパピプッペぽ様にあえるかと思ってずっとこうやって居座っていたっけ。
今はあの方の手駒として、確かな繋がりがある。
ヴァナ・シーのバッジを見るまでもなく、ジロー様の拡張された体の一部として生きて行ける今が・・・幸せの絶頂なんだ。
ベンチの下のドリンクラックからビールを引き抜き、ツヤツヤゾロゾロとした爬虫類のアタマを撫でながら、未だしつこく痛む胸の中へとアルコールを流し込んでいった。
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