第36話 空と星と

華々しい星明かりから疎らな輝きが寂しげに散る外宇宙へ。

視界を目まぐるしく宇宙の 内外で切り替えつつ、ゾラのマサーンは敵の砲弾、青く輝く幾条もの帯をかわし続ける。


「スゴい……凄いですパピプッペポ様!」


思考が体とMTDを介さずに機体へと直結されているかのようなコントローラビリティに、思わずゾラの口からこの機体をもたらせた男への感嘆が飛び出した。


敵機影の補足を待たず、予測弾道の先へ3バースト連射でガンのトリガーを引き続ける。

新たに延びてくる敵の青い光条の先へと、桃色の連射砲弾の輝きが飛んで行き……一瞬の静寂の後に白く眩い炎の輪が弾ける。


視界の端、目には映らないが意識には存在がフックされている矛盾の境界で慎まし気に光っているキルカウンターが回転する。


スコアは16機を越えていた。


『隊長、マリんぬです。至急ブリギットのディフェンス、フォローに回ってください!押されています』


「わかった。ここから狙撃を行う、座標と戦況映像を送ってくれ」


『戦線を離脱せずにですか?!』


「此方の戦況はほぼ決してしまった。ナリス中尉の活躍だよ。ニュリンクの彼女に20機は少なかっ……よし、援護を開始する」


マサーンのガンが変形を開始し、長大なロングライフルになった。


ゾラは僅かな星だけが映まばらに広がる暗黒の外宇宙に向けて、正確に一秒間隔で引き金を引く。

連続六射、10秒を越えたあたりでブリギットからコールが入る。


『マリんぬです、隊長!こちらは落ち着きました、前線へ復帰してください』


「そうか、わかった。こちらは……」


ただ一つ残ったロックオン映像の中で、ザイオンネウの標準航宙母艦が炎を吹き上げる。


(……何が燃えてんだろ……)


稲光を纏う炎とガスの中に装甲他構造部材を飛散させて行く敵戦艦を眺め、ゾラはブリギットをコールする。


「敵の殲滅を完了、これより戦時協定二条一項に則り生存者、捕虜の捜索、回収を行う」


『隊長・・・ブリギットは連れ込み宿ではございませんよ』


「・・・・(チッ)・・・わかっているさ。救難信号付きのバルーンに詰め込んで放置するだけだ」


『舌打ち聞こえましたよ!捕虜の管理なんて手間かけられる程の』


「これより任務を開始する、切るぞ」


ぱちきゅん、とまりんぬ艦長のバストアップ映像が消えた。


エアの代わりにカーボンファイバーの膨張で膨らんで行くバルーンを漂流中の敵艦周辺、生存可能な初速に収まる範囲へと打ち出して行く。


ギッチリと詰まったカーボンの綿がガスで膨らんで行くと同時に人体が発している電磁的な波に誘われ、ガスで姿勢制御を行いながら要求徐者を拾い集めて行く。


(……生きてんのかなあ……損傷で苦しんでたらかわいそう……って、なに娑婆っ気出してんのよ、何時もの戦争なのよコレは)


最近何故か無駄に対象の苦境に共感してしまう惰弱をやる気なく叱咤していると、ナリスからコールが入った。


『ゾラ隊長、ジュリアンがライアンと揉めてるので射殺の許可を求めます』


なぜか戦闘中のようにマズルファイアのフラッシュをあびてるような映像のナリスへ応信する。


「あーい……え?!ダメダメ、駄目よ!つか発砲の照り返しよねソレ?!」


『ハハッ!既に最初の許可で撃ち……チッ、生きてやがる。放置し帰艦します』


僚機モニターの中でナリス隊が編隊を組んで反転し消える。


放置?どーなって……は?


大破したジュリアン機が浮遊している。


「ポッドは……え?」


此方へと流れてくるシェルポッドを見つけるも、それも大きく穴が開けられ、キャッチしてみるもなかに人影は無かった。


「どーなって……あ、居たわ」


救助バルーンに取りつきながら、先客であろう小柄なザイオン兵士と殴りあっていた。


「なんだあの小さい……子供?180くらいの背丈の男が子供といい勝負してんの?」


いい加減なパンチで延びたジュリアンの腕を掴んだ子供(仮)は、クルリと回ったかと思うとジュリアンの側頭に両足蹴りを入れた。


ジュリアンはそのまま死体のようにグッタリし漂流を始めている。


彼のそのあまりのダメ男っ振りに胸が締め付けられるような切なさが広がる。


ああゆう男は横に殴ってプライドを回復するための女がいなきゃダメになってしまうのよ……え?ダメがダメになってもなんも変わらない?いやいや、子供が生まれるかもしれんやろ……


等といつの間にか口内に溢れた唾液を垂れ流しながらジュリアンのアホな姿を見つめていると、件の小柄なザイオン兵士がジュリアンの体を掴みこっちに手を振り始めた。


レーザー通信を開く。


『この男をこちらの捕虜とする!交換条件としてこちらの兵士を貴艦へ回収することを望む!』



……



「えっ、イヤです」



女の子だし、なんかあんまり……一人で生きなって。



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