第34話 新たなる部下

「はぁ?!あたしの直下に?!」


何故か先程……先日意味不明な恐喝をかけてきた士官がこちらの戦隊へ所属毎配置転換になってしまった。


モニターの中のニナイ御姉様が口を開く。


『独断で無許可の出撃、航行を行い他戦隊を恫喝した、ということで此方で処分……処理していいらしいからあんたの部下にしなさい。以上よ』


「なっ!?あの……あ、切れた……はぁ」


あーしはため息と共にコマンダーシートへと座した。


処分か。

この任に着かされた時、最初に充てられた部下逹を当て擦っているのだろうか。


「そういえば、隊長は一人で着任されましたよね。二名の部下と共に、という話しが来ていたのですが」


「ああ、あの二人は……まあニナイ様の方で宜しくやっているのだろ。それよりも男の部下か……やりづらいな」


「そうですか?」


「彼らは何につけ女に対して数段高い位置に立とうとするからさー……良きにつけ、だけど」


「ああ、実力や正論で畳むと拗ねますからね。・・・フフ、でもそこは宥めすかし煽てて」


「あんなに美しい男をすぐ射殺しなきゃなんないかと思うと・・・え?船長なにか言った?」


「えっ・・・いえ、特になんでもないです」


「それじゃ、嫌なコトはさっさと済ませちゃおっかな!」


コマンダーシートから跳び降りる。


「じゃあちょっと行ってくるよ船長、あとお願い」


船長に手を振り、拘置所へ向かおうとブリッジを出る。

マリンぬ船長の顔が心配そうだったけど、やっぱり手下に欲しいのかなあ・・・金髪ロン毛の男、ってもったいないもんね宇宙世紀的に。


でも内惑星方面・・・いや、方面軍なんて言ったら失礼(笑)か、本軍?ダナンのエリート意識が見え見えどころか口で言ってたもんな・・・なんだっけ、ジオ・・・大地圏制式軍は外惑星系ヤツに対してなんでも命令できる、だっけ。やだなー・・・射殺必定じゃん。


捕虜として拘禁している区画へと向かう……ん?なんか配管とかが丸出しの機関ブロックへ入ってしまったんだが……道間違えちゃった?


エアコムで案内図を確認する。


え?合ってるけど……この先部屋なんて無いよ?!


進んで行くと段々肌寒くなってきた。


「……いっ!こ……せ…っ!」


前方から男のわめき声が聞こえてくる。

中々のイケボだ。


宙に漂う冷気の霜を掻き分けて行くと、両の手を配管に固定された金髪のイケ男が現れた。


「おいっ!おまえ、戦隊長とか言ってたな、俺を開放しろ!」


「なんだ、うんこでも漏れそうなのか?」


あっ、思わず男の振り乱した金髪の輝きが流れ落ちる水のように蒼く澄んだ碧眼を覆ってゆくのに見とれて思ったことをそのまま言ってしまった……。


「くっ、やはりそうか……俺を糞まみれにさせ心を折る積もりだろう、許さんぞそんなことは……!?」


あたしが抜いた銃を見て、男はイケボを止めた。

いやいや、声を止めた。


「お前を処分に来た。私、ゾラ・ソラビアレ少尉の部下になれ」


答えは分かっているので、あたしは引き金を


「わかった!なるなるっ!早く開放してく…ひぁあっ!!」


発砲音と共に、甲高い鉄を叩く音が機関部通路内に木霊した。


俯いて震える金髪の頭頂を見つめる。

……弱装弾だし当たってたら貫通することは無いハズだし、まぁ無事だろう。


あたしはエアコムで艦内警備課を呼び出した。


「おい、捕虜を開放。装備を渡してやれ、リーゼレータ二級、待機整備要員だ……コキ使ってやれ」


『はっ!階級は中尉と聞いておりますが、士官待遇厳守でありますか?』


「ファーストからあたしと同じセカンド……いや、准尉……卒前見習いまで落とす。宜しく指導せよ」


『かしこまりまして』


海賊に似合わぬ慇懃さの軍憲に笑みを返し、言外テキストでお漏らし対策(大)を用意するようにとの追伸を添付後、通信を終えた。



「強運だな。私の審査に通った部下は貴君が初めてだぞ、候補生」


答えも視線も戻ってこない男に踵を返し、あーしは二の腕を擦りながらマイルームへと向かうのであった。




……寒いっ!

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