第16話 戦奴

「ほらココ。現地協力者からの要請で飛び込んだら・・・」


「ノーラ・・・何故だッ!」


二人は仲良く並んで・・・あーしのソファに・・・ナリスはライアンの肩に頭をもたれ、肉食獣を模したクッションを抱きしめ無駄に少女ぶって・・・エアコムで当時のガンカメラ映像を鑑賞していた。


「ホラホラ、磔台の足元にゴミとか色々積み上げてんじゃん。煙で燻し上げて呼吸を求め苦しみ悶える様を観賞しよってイベントだったんじゃね」


「何故俺の家族がリンチに遇うんだよ!」


「家族のルーツがザイオンだったから、とかでしょ?」


「クッ…負けた後も只管に迫害されなきゃなんないのかよ」


ナリスが唐突に笑い始めた。


「何がおかしい!」


「だって、ひっ…ぶはぁつ、可笑しいって!いけない、いけなくないの問題じゃないでしょ?」


目元に滲んでいたのか涙をぬぐいつつ、マジ顔でのたまった。


「弱いから集られ貪り尽くされたんだよ、当然でしょ」


「弱いからってこんな大勢で少女を、妹を吊るすか?!こんなコトが許されるなら言葉も国家も法律も要らねえだろ!」


「要るよ、当然でしょ」


ナリスは言い捨て、映像を進める。


血の生け贄に猛り上がった群衆が次々と血泡と肉片を撒き散らし果てて行く。


「ホラ、コイツらの顔見てやんな、って!弱者をいたぶり満面に浮かべてた喜色が一瞬にして青ざめ眼を剥き大口を開け絶叫する、このアホヅラ……たまんねえよ!」


再びナリスの哄笑。


「この虐殺をもたらせるパワー!これが国家、そして法律ってやつよ!」


ギャラギャラと耳障りな声があーしの部屋で反響しまくっている。


「くそッ、射撃をやめろォ!」


ライアンがナリスの首を締め上げながらテーブルへと押し付ける。


「ギャハ、ムリ、無理だって!どんだけ昔のコトだと思ってんのよ!」


「くそぉ……ノーラ、いや!ノーラに弾が当たってる映像は無い!きっと生きて」


「ワケねーだろ!確かにリアルモデリングしても出てこねーよ、だがしかぁしッ!肉片のみならず歯や骨片が粒子砲弾着弾の衝撃で弾丸の嵐のように吹き荒れているこの空間でッ!脆弱な生身を晒し無事で居られるカッ!」


「ちっくしょう……」


ナリスから手を離し、自らの顔を覆って嗚咽を上げるライアン。


「オイオイオイオイ、ライアンたんっ!」


嗚咽を漏らしつつ悲嘆の海へとひたすらに沈降して行くライアンの後頭部をペシペシ叩きつつぴったりと体を寄せて迫るナリス。


「泣いてる場合?ここにカタキが居るんですけどぉ?」


ライアンはナリスへ襲いかかった。ナリスは押し倒されつつあーしに人差し指と中指でブイの字を示すようなサイン(意味がわからん…)を送ってきた。


サカり合う二人から踵を返し、部屋を出るしかなかった。





「はぁー…」


デストロイヤー級の艦内は狭い。

あたしは狭い通路の隔壁ワキに設置された自販機からコーラを買い……髙ッ!一本500宇宙ドルじゃん……呷る。

喉を痺れさせる炭酸の迸りが爽快だった。


「このままなし崩しであの部屋取られちゃうんかなぁ」


やるせない……


エアコムで船長を呼び出す。


『はい私です』


「ゾラだ。ナリス中尉に部屋を取られてしまった。別の部屋を都合してくれ」


『は?スグ向かいます』


切れた。


スグ向かうって?え?慰めてくれんの?船長……艦長様が直々に?


……ひょっとして又思考や感情を誘導されてんの?



ドカドカと目の前を武装警官ぽい奴等が絡まったまま硬直してる裸の男女を吊り下げながら横切っていった。


「戦隊長どの、不埒な部下は排除しました。お部屋へお戻り下さい」


「え……あの怖そうな警官みたいな人達ってなに?」


「艦内警備課……軍憲です。殴り合いや交合などにお困りの際は課への通報をご一考下さい」


「ああ、ありがとう。助かったよ…で、相談なんだが」


身を返そうとした船長を呼び止めるように言葉を継いだ。


「なんでしょう?」


「あのライアンというナリスの私物だが。ヤツに私のゾカ2を使わせてみないか?」


まりんぬ船長はため息を吐いた。


「まさかサボ……」


「いや違う!ナリスの懐柔が見事過ぎてな、戦闘動機をユニオンへと向けることに成功していた」


「性交……たしかにシていましたが」


「うむ。これで私は戦場を俯瞰することに専念出来、動的な作戦指示を的確、臨機応変に下せるようになる」


「……コマンダーが言うのであれば、その編成で回してみましょう」


「うん。では私は寝る」


いそいそと自分の部屋へ戻ると、腐ったような魚介の臭いが充満していて、清掃課は無いのかと船長に訪ね呆れられるのであった。







握り拳程の大きさの赤い星をポート|左舷に、四機のリーゼが編隊を組み青い重力スラスターの噴炎を長く伸ばしていた。


『アントン、ヘッケル!しっかりリオたんとトライアングル組んでんだろうね?!』


『重力マップの縮尺率を見てくださいよ、こんなんで火星のスイングに乗っちゃあ最大遠方の大地までだって数十分ってとこでしょう』


『こんな慣性が乗っちまってたらガンなんざ撃てねえよ、編隊を緩めませんか』


ナリスの怒声が飛んだ。


『バーッカ、だぁからガンコンををスペシャルなヤツに入れ換えてんだろ、最小口径の20ミリまで絞りきった超々高速弾頭に切り替えるんだよ!』


『20ミリ……ハァ?!これって対人用じゃ……おいおい、装圧レベルが艦砲並じゃねーか!ライフルでもないこのガンじゃ圧送距離が……いや、銃身が裂けるぞ!』


『ゾラがもう使ってんだよ、心置きなくブッ放してやんなッ!』



四機から送られてくる音声をモニタしつつ、ブリギットのブリッジであたしはコマンダーシートに深く身を沈めながら午後の紅茶を頂いていた。


「ゾラ戦隊長どの、ヘッケルの憂慮は当然なのではないでしょうか」


「えっ?いやだってそんくらいの圧掛けないと銃身の中で着弾しちゃうよ?」


「はあ、銃身から出ていないのならば危険では無いのでは」


「別ベクトルで慣性を持った物体はそれ自体巨大な質量を得るからね。重力機関以前から繰り返されている悲劇だよ、自らが投射した砲弾に被弾する……などというのは」


「悲劇と云うより喜劇ですね」


「いや、被弾の恐怖に曝される此方としてはとても笑えんのだが……前方に投射した弾丸が中空に生えたアンカーとなってリーゼの装甲を切り刻む恐怖を船長にも是非味わってもらいたいよ」


「謹んで遠慮申し上げますわ……処で、ライアン二等兵ですが、作戦中の寝返りなどには何か対策を考えてらっしゃるのですか?」


「何も。戦奴ごときに割くリソースなど無い」



ふ、と笑みながらカップに口を付ける・・・このデキる女感!

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