第7話 デストロイヤー

船体底面の甲板へと着艦し、オートで狭く小さな格納庫の帰投ハンガーへと入ってゆく。


「リーゼ3機がこんな僅かな間隔で・・・旅行鞄の中身のようだな」


リーゼのハンガーから発進スペースを挟んでロケット戦闘機が5台、立てかけられていた。


拡張感覚から解放され、コクピットシェルの下半球に開いた細長いハッチを出ると、待ち受けていた整備士達にタオルとドリンクを渡された。


「お疲れ様です戦隊長!」


「すげえ活躍でしたよ!」


ヘッドギアのシールドを開け、喜色満面の男たちに戸惑いながらもチャンスを逃すべくもないと、損害の言い訳を口走ってゆく。


「済まない、一次装甲を全て捨ててしまった。シールドも失ってしまったし、おそらく被弾による竜骨、関節の痛みも・・・装備やジオメトリの歪みは諦めるが、なんとか次も出撃れるようにお願いしま・・・頼む」


「なぁに、デストロイヤーとは言えここにゃフレームやゆがみ修正の為の精密作業リーゼ(巨大すぎて艦外に懸架されている)があるんだ、アライメントは任せてくださいよ」


「ああ。それに十八機分の敵さんのデブリがあらぁな。・・・まぁ拾えて七機分でしょうけどね」


「装甲だって心配いらねぇよ、ですぜ!今牽引ビームで拾ってますがね?分子構造の疲労が全く無いマテリアルがめちゃくちゃ大量にサルベージ出来てんですよ」


これが打てば響く、というものなのだろうか。

女の城では味わえない、政治駆け引きの無い気の置けないやり取りがさわやかで・・・男たちは汗臭く暑苦しいが・・・気分が上昇してしまう。

しかし、サラのマテリアルで組まれた敵リーゼ?・・・試作、試験的な運用を行っている敵組織が木星域に?・・・などと妄想しつつ、当たり障りのない返答を返す。


「フフ・・・なんだか、怖くなってしまうな。次に戦果がなかったらと思うと・・・帰ってこれなくなってしまうぞ」


「なぁに、そんときゃ俺らの所為にでもしてくれりゃいいんですよ」


「そうそう!ただ、そんときゃ悪態だけじゃなくて具体的な不満と要求もお願いしますぜ」


「ああ。言いがかり的な暴言でも結構ウィークや疲労、バグが隠れてたりすんだよなぁ」


「まぁ俺たちゃセンサーや数字に出ない損害は見つけらんねえからな」



「おいお前たち!いつまで戦隊長殿を拘束するつもりだ!」


若い女の声にビクリと見上げると、格納庫中階のエレベータ前にバイコーンのキャップを被った、私よりも明るい桃色の髪の女性・・・海賊か?・・・が腕を振り回していた。


「ああ、いけねえや、今お送りしますって!」


「じゃあいくか、せえのっ!」


男たちはあたしの体のあちこちを掴むと、その女に向けて放り上げた。

あたしの視界で格納庫が回転しながら下降してゆく・・・隊長を投げるとは!


海賊のコスプレをした女の立つデッキの手すりをなんとか掴み、足を付けるが目が回りふら付いてしまう。


女海賊が敬礼し、のたまう。


「マリン・ニュー少佐、この船のキャプテンをしています。まりんぬとお呼びください」


答礼する。


「ゾラ・ソラビアレ少尉です。私が戦隊長と聞きましたが・・・わだかまりはないのですか」


「船の事は全てお任せください。コマンダーは誰にでも出来るのですが・・・正直、少尉・・・隊長の活躍を見た後では、シートに縛り付けるだけで軍の莫大な損害となる気がしてなりなせん」


わたしよりすこし目線が高い程度の上背。

見た目が若すぎて年齢不詳だが・・・


「ふふ、あまりの歓迎ぶりに気分が上昇していました。やはり私には士官より兵として生きるのが合っている、コマンダールームは更衣室の向かいを使わせてください」


「至急用意しましょう。・・・おい、行け」


「はっ」


小太りの髭メン・・・頭にバンダナを巻いている・・・が二名、走り出した。

やはり扱いは一兵卒か。ニナイ姉さまの鼻薬が効いているのだろうか・・・女だし。



「整うまで艦内をご案内します。こちらへ」


「艦長みずからですか」


「はい。よい手下が揃ってますので」


艦長手ずがらに案内を頂き、館内を一通り案内しそれぞれのクルーを紹介された後はブリッジへと上がった。


「こちらがコマンダーシートです。おかけください」


「恐縮です」


「フフ、戦隊長として少しは偉ぶっていただかなければ」


「そうでしょうか・・・うん、わかった。座らせてもらおう」


キャプテンシートの隣、わずかに上に固定されている肘かけ付きのシートへ座る。


「ああ、見晴らしいいなぁ。偉くなった気分だ」


「偉いんですよ、この隊の長なんですから」


シートのラダーを囲むようにオペレーターが六人、船長と私を向いて配置されている。


前方には太陽がコロナを残して黒く塗りつぶされ、小惑星帯の輝きが広がっていた。


「これはスクリーンなのか?」


「いえ、透過金属と聞いてます」


「肉眼で見る宇宙は・・・なんとも掴みどころのないモノだな」


「パイロットは不安になるそうですね、やはり拡張感覚の視界は変わりますか?」


「ああ、よいものでは無いが。 茫漠とした空間に自分一人・・・ひどく強い孤独を感じるのだ」


「孤独、ですか。パイロットのモニターカメラを見ると、コマンドやアラート他様々なサインに囲まれてひどく忙しないように感ぜられるのですが」


「ああ、プライオリティは戦術コンが自動的に意識を引いてくれるので考えなくともよいのだよ、実際の戦闘マニューバも生身と同じ感覚で行える。楽だよ」


「想像できませんね」


「少佐殿はリーゼの対戦ネットゲームの経験は無いか?」


「あー、彼氏・・・連れ合いの部屋にゆくとよく遊んでいるのを目撃しますが、私自身はありません」


「そうか。機体のマニューバはそうしたゲームのアクションマクロをコンバートして使っていたりするのだよ、それだけリアルと差の無い戦闘が味わえる。次に部屋にゆくことがあったら・・・いや、恋人との逢瀬にゲームなど無粋か」


「おや、隊長殿もすでにそういったお相手が?」


「む、・・・不快にさせてしまうかもしれない。私はそういう任務に充てられる駒なのだ」


クルーへ売女、娼婦との印象付けを行い戦闘で上がりきっている私のイメージを落とそうと会話を誘導されたのかもしれない・・・いや、そもそも、ユピテリーナでは既に公知のこととなっているんだ。既知のクルーも沢山いるだろう。


まりんぬ船長の目が厳しいものになった。

やっぱり、娼婦の下には就きたくないよね。





「第七連隊の連中は、一体何を考えているのでしょう」


そう呟くまりんぬの声は、浅からぬ怒気を孕んでいた。

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